第6章~伝説~
「むかし、むかしのそのむかし。この夢の世界ドリーミアができて間もないころ死者たちが闇の門から突然現れ暴虐の限りを尽くしました。田畑は荒れ果て、町は焼き払われ人々は逃げまどいました。人々が絶望の淵に立っているとき7人の見る者が現れ死者たちと戦いました。その戦いは激しく7日7晩続きましたが、ついに見る者が死者たちを倒し夢の世界は守られました。彼らが元の世界に帰るとき7つの霊玉を夢の世界に残していきました。」
そこで精霊王は話を終えた。そして
「見る者たちにお願いがあります。7つの霊玉を集めて死者たちを再び眠りにつかせてあげてくれませんか。」
と平山達にお願いをした。
「任せてください。俺たちにかかれば霊玉ぐらいあっという間に集めてみますって。ですよね、高橋さん。」
「あ、ああ。」
「なら決まりっす。明日、朝一で出発します。」
やれやれと感じで高橋はため息をつく。
「ああ、そうそう忘れてた。」
高橋はそう言ってリュックからフローラルを出す。それを見た精霊王は
「まあ、それは立派なフローラルですね。しかもメスですわ。今夜はごちそうになりそうですね。」
「そいつに性別なんてあるんですか?」
平山の質問に精霊王は
「ええ、ありますわ。メスはオスよりもふっくらとしていて色も地味なんです。ちょっとお借りしてもよろしいですか」
「ええ、どうぞ。」
高橋はフローラルを精霊王に手渡す。受け取った精霊王はフローラルを軽く自分のグラスに向けて傾けると黄色い液体がグラスに注がれていった。
「どうぞ、味見してみて下さい。」
精霊王はそう言って二人に黄色い液体の入ったグラスを差し出す。
「いただきます。」
平山はおそるおそる、その液体を口に入れる。
「あ、甘い。高橋さんもどうぞ。」
続いて高橋もその液体を口に入れる。
「すっきりとした甘さで、香りもいいですね。」
その感想を聞いた精霊王は
「フローラルのメスは甘い蜜を花の中に蓄えていて、その蜜はお菓子やお茶に使われたりするのですよ。また疲労回復にもいいのですよ。」
「フローラル、すごいっすね。歩き回るだけじゃないんですね。」
そう平山は感想を述べる。
「ええ、フローラルは万能薬として重宝していますから。そうそう、今夜の食事にフローラルも使いましょうか。」
そういうと精霊王は再び侍女を呼び出し、高橋がとってきたフローラルを侍女に渡した。
しばらくすると侍女が
「寝室が整いました。」
とやってきたので二人は寝室に向かった。寝室につくと侍女は
「お食事ができたらお呼びいたします。」
といってその場から去った。
部屋は簡素な作りでベッドが二つとタンスと化粧台とテーブルと椅子があるだけだった。
「やっと一息つけますね、高橋さん。」
「ああ、休む暇がほとんどなかったからな。ところで平山、あの精霊王の話、どう思う?」
「7つの霊玉の話っすか。正直、よく分からないっす。でも他に手がかりがないなら探してみるのもいいかなって思ったんですよ。」
「それも、そうだな。すごい奴だな平山は。」
「いやいや、高橋さんにはかなわないっすよ。」
しばらく二人が談笑しているとコン、コンとドアをノックする音がしてきて
「失礼します。夕食の準備が整いましたのでご案内いたします。」
と侍女が入ってきた。侍女に案内されると宴会はすでに始まっていた。音楽隊がボンバルドの伴奏を引き連れてバグパイプを奏でている。
「お待ちしておりました、どうぞこちらへ。」
精霊王が平山達に席を案内する。
「めっちゃ賑やかですね。」
平山の言葉に
「今日は祝勝会ですから、存分に楽しんでくださいね。」
精霊王はそう言って二人に目の前にあるグラスに飲み物を注ぐ。精霊王は二人がそれを飲むのを見てから
「お味はいかがですか、フローラルの葉から作ったお茶は?」
と質問した。
「そうですね、すっきりとした味で、香りもいいですね。フローラル茶については話に聞いておりましたが、いただくのは初めてです。」
と高橋が感想を述べる。
「そ、そうっすね。さっぱりしていていいっすね。」
と慌てて平山が答える。しばらくすると音楽隊の演奏が静かになり、今度は拍手の渦が起こり始める。再び音楽が鳴り始め、よく見ると輪になった観客の中心部には男二人とアイラがいる。一人の男がアイラをひょいと持ち上げ投げると、アイラは空中で見事な宙返りをして反対側の男にキャッチされる。
「す、すげ~、アイラ。」
平山がアイラの曲芸に驚いていると精霊王が
「アイラは風の精霊一の曲芸使いなのですよ。驚きました?」
「はい、驚きました。」
アイラの曲芸はまだ続く。一本のポールで艶めかしいポールダンスを披露したかと思うと、二本のポールの上にひょいと登り、その場で逆立ちを決めたかと思うと、その場でバク転をして再びポールの上で逆立ちを決めて見せた。ポールから降り、アイラがウインクを決めると観客から盛大な拍手が鳴り響いた。アイラは平山達に近づくと
「どう、見直した?もっと褒めてもいいのよ!」
の言葉に高橋が
「すごいな、アイラちゃん。こんなすごいの初めて見たよ」
と答える。
「でしょでしょ。いっぱい練習したんだから、できて当然ね。じゃあ、たっぷり楽しんでね。」
そう言ってアイラは人ごみの中に消えていった。宴会は続き音楽と踊りで騒がしさが増していく。
「少し、よろしいでしょうか?」
精霊王はそう言って平山達を森の中に案内した。
「突然呼び出して申し訳ありません。お二人にはこれから我々、精霊の力を一つ授けようと思い、お呼びいたしました。」
「精霊の力?それってどういうことっすか?」
平山の疑問に精霊王が答える。
「はい、あなた方に風の力を与えようと思います。見る者は不死身であり、また、この世界の持つ力を4つまで持つことができるのです。そのうちの一つ、風の力を授けようと思います。」
「そりゃあ、すげえや。力が手に入れば死者たちともやり合えるしな。」
平山が意気揚々と答える。
「はい、死者たちの力はとても強くいくら見る者と言っても何の力なしではとてもかなわないでしょう。現にお二方は死者のしもべである夢魔に太刀打ちできなかったとアイラから聞いております。」
「おしゃべりなお嬢ちゃんだな、アイラちゃんは。」
高橋がそういうと、精霊王はくすくすと笑いながら
「風の精霊はうわさ好きでおしゃべりなんですよ。今のお話は今頃、全大陸の風の精霊たちに伝わっていると思いますよ。」
といった。
「早すぎだろ、それ。」
と平山が言う。
「それでは始めましょうか?」
精霊王がそういったので二人はお願いしますというと儀式が始まった。
精霊王が何やら呪文を唱えると光の玉が二つ現れ、平山と高橋にそれぞれ吸い込まれていった。
「これでお終いです。お二人とも念じてみてください。」
精霊王に言われるまま二人は念じると平山の体は浮き上がり、高橋の目の前にはつむじ風が生じた。しかし驚いた平山はバランスを崩して落ちてしまった。
「最初はだれでもこんなものですよ。頑張ってくださいね。では、戻りましょうか」
そして3人は宴会の場に戻った。宴会は明け方まで続いたが二人はとても疲れていたので途中で部屋に戻り朝までぐっすりと眠ってしまった。夜が明け二人が目を覚まし朝食をとると支度を済ませ精霊王にあいさつし村を出ようとすると
「ちょっと待ったー、お二人さん。私も一緒に連れてって。」
とアイラが大きな声で平山達を呼び止めた。
「私、アンデルの港町に知り合いいるし、風の魔法も使えるし連れていって損はないわよ!いいですよね、精霊王様?」
「いいですよ、ぜひ広い世界を見てまた無事に帰ってきてくださいね、アイラ。」
「だって。ではアンデルの港町にしゅっぱーつ!」
こういってアイラは半ば強引に平山達の旅についていくことになった。