第5章~仲間を探して~
平山と高橋は住民が起きる前にグリムの町を後にした。皆の前でぼろ負けになっただけでなく、セイラはさらわれたこともあり町にとどまることがいたたまれなくなったのだ。二人はあの英霊に対しリベンジを誓うとともに仲間を探す旅に出かけた。しばらく街道を歩いていくと森が見えてきて二人は森の中に入った。森の中はひんやりして涼しく、鳥のさえずりがあちこちから響きわたっていた。時おり歩く植物フローラルに出くわしたが、高橋はフローラルに槍をつき自分のリュックサックに放り込んだ。その鮮やかな動きに
「手慣れてますね。」
と平山は驚愕した。
「まあな、この世界に一か月ほどいるしな」
高橋は答える。
しばらく歩いていくと二人の前に人影らしきものが見えた。二人はそっと近づくと人影の正体は銀髪で緑色のワンピースを着ている女の子だった。二人はその少女に近づき
「こんにちは」
と挨拶をした。少女はこちらを振り向き
「こんにちは」と二人に挨拶を返した。平山達は少女に今までのいきさつを話した。平山達の話を聞いているうちに彼らが見る者と知った少女はキラキラと目を輝かせていた。
「見る者なんて出会うの初めてだよ。これはもうみんなに知らせなきゃいけないわ。そうそう、私の名はアイラ。風の精霊よ。」
アイラはそういうと指をパチンとならす。次の瞬間、つむじ風が生じあたりの落ち葉を巻き込んでいった。
「すごいでしょ!もっと褒めてもいいのよ。それにちょうどよかったわ。二人に手伝ってもらいたいことがあるの。」
アイラのお願いとは森の奥にいる妖獣を倒したいということらしい。妖獣とはこの森に棲んでいる怪物で時々、精霊を襲うこともある獰猛な奴ということだ。
「なあ、平山。これは俺たちにとってチャンスだな。」
「そうっすね、高橋さん。妖獣を倒せば少しは英霊に近づけますね。」
平山達はアイラに妖獣討伐を手伝うことを伝えるとアイラは飛び上がって喜んだ。
「ほんとー、ありがとう。よーし、それじゃあ出発!」
アイラは意気揚々とその妖獣がいるところに向かっていった。しばらく進むと巨大な生き物がそこにはいた。大きさは象ほどであろうか、二本の角が水牛を連想させる。
「なあ、アイラ。精霊って不死身なのか?」
平山の質問に
「普通に死ぬわ。見る者と違ってね。今まであの角で何人もの精霊が命を落としたわ。ただでさえ風の精霊は力が弱いの。あんなのに普通は勝てないわ。でも今日は違うわ。3人もいるし二人は見る者だし大丈夫よ。」
3人は恐る恐る近づき、妖獣の後ろ側に回る。そのときふいに妖獣が後ろを振り返った。3人に気がついた妖獣は猛然と突っ込んでくる。平山と高橋は左右によけ、アイラは上空に逃げ近くの木に飛び移る。平山と高橋は左右から妖獣に切りかかるが分厚い皮膚がそれをはじき返す。そして妖獣はその場で回転し二人を吹き飛ばす。次にアイラがいる木に体当たりして木をなぎ倒す。とっさにアイラは上空に逃げる。アイラは指をパチンとならし上昇気流を起こすが妖獣はびくともしない。
「もう重すぎるわよ、あの妖獣。もっと軽ければ引っくり返せたのに」
そのときアイラは何かをひらめいた。アイラは地上に降りると
「ねえ、二人ともこっち来て」
平山達はアイラのところに駆け寄る。アイラは二人に作戦を打ち明ける。
「無茶言うね、アイラちゃん。でもその作戦乗ったぜ。なあ平山?」
「もちろんっすよ。高橋さんにアイラ。」
高橋と平山は了承する。二人は作戦通りの位置につく。妖獣が三人に向かって突進してくる。アイラが指をパチンとならすと妖獣の前につむじ風が現れ木の葉が視界を覆う。再び指をパチンとならすと上昇気流によって平山達の体を空高く上げる。平山と高橋は剣と槍をそれぞれ妖獣に向けて落下する。二人の攻撃は妖獣の目に直撃し、妖獣は傷口から血を吹き出しながらその場でもだえ苦しみやがて息絶えた。
「やったあ!ついにあの妖獣をやっつけたわ。二人とも本当にありがとう。これで仲間の無念が晴れたわ。さっそく精霊王様のところに行って報告しなくっちゃ。ねえタカシ。あの角とってきて」
平山は剣で妖獣の角を切ろうとしたが、あまりに固かったため根元から角を抜き取った。
「結構重いっすよ、この角。おまけに固いし」
平山は角を高橋に渡す。
「ほんとだ、重いな。こんなもので体当たりされたら普通死ぬわな。」
「ちょっと私にも見せてー」
「重いぞ、気を付けろよ」
そう言って高橋がアイラに角を渡す。角を持った途端アイラはよろめいて角をその場に落としてしまった。
「ほんとに重い。こんなの無理よー」
「言ったろ、気を付けろって」
そう言って高橋は角を持ち上げた。そして平山達はアイラの案内で精霊の村に向かっていった。アイラたちが住んでいるところは森の中を切り開いた集落だった。
「アイラただいま帰りましたー」
意気揚々とアイラは帰宅を告げる。
「おーアイラじゃないか」
アイラの声に気付いた村人たちが次々と声をかける。
「よく生きて帰ってこれたな」
「まーね。私にかかれば妖獣なんていちころよ!」
「あいかわらず調子いいな」
アイラの周りに人が集まってくる。
「そうそう、みんなに紹介するわ。見る者よ。この人たちが手伝ってくれたおかげで妖獣を倒せたの。ねっ!」
そう言ってアイラは平山達を紹介する。そして高橋は妖獣の角を村人たちに見せた。妖獣の角を見た村人たちは感激の声をあげて平山達の周りを取り囲んだ。拍手喝采に囲まれた平山はこの歓迎に思わず顔を赤くした。
「タカシ、ケイイチ。そろそろ精霊王のところに行きましょ!」
輪の中にアイラは入り込み平山の手を引っ張って輪を無理やり抜け出す。3人はもみくちゃにされながら精霊王が住んでいる神殿のところに向かっていった。
「精霊王様、アイラただいま帰りました。」
そう言ってアイラは神殿の中に入り、続いて平山、高橋が神殿に入っていく。
「おかえりなさい、アイラ。無事に帰ってきて何よりです。」
精霊王は落ち着いた感じの女性で3人を出迎えた。
「それは、もしかして妖獣の角ですか?」
「はい、妖獣の角です。見る者が協力してくれたおかげで倒すことができました。私一人では絶対に勝てませんでしたから。」
「そうですか。よい仲間と巡り合えましたね。大切にするのですよ。そして見る者たちよ、この度は妖獣を倒していただき誠にありがとうございました。風の精霊を代表してお礼を申し上げます。」
そう言って精霊王は二人に深々とお辞儀をした。
「お礼に及びません。当然のことをしたまでです。それにもかかわらずこうして精霊王にお会いできたことは光栄であります。」
普段だるそうな高橋とは想像つかないかしこまった返答をしたことに平山は驚いた。
「見る者とは紳士な方なのですね。話は変わりますがお二方は、これからどちらに向かわれるのですか?」
「い、いやあ、何も決まってないっす。」
緊張した面持ちで平山が答える。
「そうですか。それではこの近くにあるアンデルの港町に向かわれるのがよいかと思います。アンデルの港町はにぎやかなのでいろんな情報が得られると思いますよ。でも今日はもう遅いですから、出発するのは明日の方がよいと思います。部屋はこちらで用意いたしますので少々お待ちくださいませ。」
精霊王はそういうと侍女を呼び寄せ支度を命じた。
「しばらく時間もありますし、この世界に伝わる伝説についてお二方にお話ししましょう。」
そう言って精霊王は静かに話し始めた。