第4章~死者との戦い~
「初めまして、平山隆と申します。」
その男はけだるそうに平山の方を向き、
「高橋恵一だ。ま、見る者どおしよろしくな。」
と不愛想にあいさつした。そしてしばらく沈黙が流れる。セイラはその様子を落ち着きなさそうに見ていたが、一呼吸置き
「お願いします、タカシと一緒に今夜くる死者を倒してくれませんか」
と頭を下げた。
「まあ、いいぜ。俺も元の世界に帰るには奴らを倒さなければいけないしな。それに相手はたった7人でこの世界を荒らしているんだろ。一人で勝てる相手とは思えねえしな。」
高橋は右手でぼさぼさの頭を掻く。セイラの顔はパッと明るくなり
「本当ですか、ありがとうございます。これで夢の住人も希望が持てます」
と深々と頭を下げた。
「大げさなお嬢さんだな。まっいいか。ところで平山といったな。はじめに言っておくが俺たちは魔法とか使えないからな。」
さらっと高橋は言ったが平山は初耳だった。
「夢の世界なのに魔法使えないんすか?ゲームにあるような炎出したり、隕石落としたりとか。無いんですか?」
「ない。魔法自体はあるらしいが俺たちは使えない、残念だな。」
高橋はそういって肩を落としている平山の肩をたたく。それから平山は高橋の隣に座り、お互いについて語り合った。高橋は千葉出身であること、平山も千葉出身であるため二人は地元の話で大いに盛り上がる。一人の男が息を切らせながらパブに入ってきて
「来たぞ、奴らが来たぞ」
と大声で叫んだ。平山達がパブから出るとそこには白馬に乗って武装を固めた大柄な男とそれを取り巻くように真っ黒い影たちがいた。
「せっかく来てやったのに挨拶もなしか。これだから下々は虫に好かん。おいお前たち、余にあいさつすらできぬ奴らと住処を焼き払ってしまえ。存在する価値もないわ。せいぜい余に焼かれることを光栄に思うがよい。」
真っ黒い影は持っている松明を近くにある民家に投げ込んだ。それをみた平山達と高橋は慌てて松明のところに駆け寄り踏みつけて消火する。
「そこの虫けら、その行いは余がチンギス・ハンと知ってのことか?」
男は二人をにらみつけすごみのある低い声で威嚇する。
「誰だって関係ないっしょ。気に食わないからって街を焼こうとする方がどうかしているだろ!」
平山が男に言う。
「余を恐れぬとは大した度胸、いや無謀な虫けらよ。といっても虫けらごときに余が出る幕もない。ここは配下の夢魔に任せよう。」
馬に乗った夢魔の一人が一歩前に出て平山達と対峙する。すかさず剣を抜き構える平山と槍を構える高橋。夢魔は二人に向かって突進し、二人は左右にすかさずよける。そして平山は夢魔の後ろに回り込み切りかかる。しかし夢魔よりも早く馬が平山に反応し思いっきり蹴っ飛ばす。平山の体は宙に舞い、ぼろ雑巾のように吹き飛ばされ民家の壁に叩き付けられた。馬が平山に気をとられている間、高橋が馬の正面に向かって突進し槍を馬の顔面に突きさした。悲鳴とともに馬はその場に倒れこみ夢魔は慌てて馬から飛び降りた。夢魔は全身真っ黒で、武装らしきものはしていない。夢魔に向かって高橋は槍を突き立てるが空気に突き立ててるような感触しか彼にはしなかった。
う~ん、ちょっとまずいかな。まるで手ごたえがないな。
そう思っていると夢魔が腕をゴムのように伸ばして高橋に襲い掛かってくる。それをひらりとかわし高橋は腕に槍を突き立てるがやはり槍は夢魔の腕を通り抜けた。そんな中、馬にけられた平山が目を覚まし剣を杖代わりにしてフラフラになりながらも立ち上がる。それに気が付いたチンギスは
「ほう、馬に蹴られ壁に叩き付けられても生きているとは、お前たちは見る者だな」
と言った。チンギスの言葉に夢魔は平山が再び立ち上がったことに気が付き平山に向かって腕を伸ばし、あっという間に縛り上げてしまった。夢魔の攻撃にねばっていた高橋だったが、ついに夢魔の腕につかまり二人とも縛り上げられてしまった。二人を縛り上げた夢魔は二人をぐるぐる回して勢いづかせ、そのままバシンと地面に叩き付けた。
「フハハハハハ、見る者とはこの程度なのか。まるで手ごたえがない。余が手を出すまでもなかったわけだ。もうここはよい、お前たち、この街を焼き払え、そして余の力をこの世界の者に見せつけるのだ!誰が支配者としてふさわしいかをな」
再び夢魔が火を放とうとしたとき、
「待って!」
と甲高い声がした。セイラの声だった。セイラは倒れている二人の前に立ちチンギスにこう言った。
「ねえ、あんた。女を手に入れるためにこの街に来たんでしょ!だったら私を持っていきなさいよ!」
その言葉を聞いたチンギスはセイラを品定めするかのようにじっと見つめる。
「よし気に入った。この女、余が貰い受ける。」
チンギスはそういうとセイラに近づき、ひょいと持ち上げたかと思うと自分の前に乗せた。
「お前たち、運が良かったな。余はとても気分がいい。よし、お前たち引き上げるぞ」
そう言ってチンギスたちは町から出て行った。チンギスたちが去った後、住人達は倒れている平山達を取り囲んでひそひそ話を始める。
生きているのかしら?
さすがに死んでいるだろ?
お前どっちにかける?
そんな会話があちこちから聞こえる。石を投げつける者もいる。ようやく二人が目を覚ますとすでに夜が明けかかっており囲んでいた住人達も自宅に帰り眠りについていた。
「あ~あ、派手にやられちまったな」
頭をポリポリ掻きながら高橋は言う。
「ほんと、ぼろ負けっすね。でも不死身っていうのは本当みたいっすね。」
平山はそう言うが、馬に蹴られ壁に叩き付けられた挙句、縛り上げられて地面に叩き付けられた傷跡は生々しく残っている。
「まあ、平山が生きているのだから見る者が不死身なのは本当だろうな」
高橋は笑いながら言う。