第3章~出会い~
平山は意気揚々と森の中に入る。森の中は木漏れ日が差し、鳥のさえずりがあちこちの方角から聞こえてくる。時折、木々の葉がそよ風にふれて平山を招き入れるかのようにざわめいていた。とても魔物が出てくる雰囲気はなかった。
「なんだこりゃ。」
思わず平山は剣を構えた。その正体は、根っこの先端が二つに分かれそれを足のようにして、うろうろする植物らしきものだった。その植物は、しばらく平山の周辺を歩き回っていたがやがてどこかに行ってしまった。
やれやれ、夢の世界には変わった生き物がいるもんだなあ。
さらに奥に進んでいくと時折、水が流れるような音が聞こえてきた。それは一定間隔でぽちゃんぽちゃんと木々にこだまして森の中を響かせていた。
突如、悲鳴がおこり静寂が崩れた。そして獰猛な足音が森の中を駆け巡る。
今の悲鳴は女の子か?
音はあっちのほうからだな。
平山は音がする方に向けて走る。しばらくすると音は止み、代わりに悲鳴が再び聞こえる。
「誰か助けて!」
平山は鞘から剣を引き抜き、声の主との距離を詰めていく。現場につくとそこには今にも襲われそうな女の子と体長2mもあるかと思われる巨大な熊のような豚のような生き物がいた。
「お願いします、助けてください!」
少女が悲痛な叫び声で平山に助けを求める。
「今助けてやるからな、ちょっと待ってろ。」
平山はおそるおそる謎の生き物に近づき、
「うおりゃあ!」
と気合を込めて謎の生き物の肩を剣で突き刺す。
肩を突き刺された生き物は真っ赤な血を流しながら耳をつんざくような悲鳴を上げる。
そのすきを見て少女はその場から離れ平山のそばに駆け寄る。
「ここは危ない、早く逃げよう」
平山はそういい、少女の手をつなぎ、その場から離れた。
「ありがとうございます、助かりました。あの、私セイラと申します。」
「どういたしまして、俺は平山隆、よろしくな。」
「ヒラヤマタカシ?変わった名前ですね。」
どうやら苗字と名前の区別はこの世界にはないらしい。
「え~っと、隆でいいよ。」
「ありがとうございます、タカシ」
そういって再びセイラは平山にお辞儀をする。セイラは平山よりも頭一つ分ぐらい小さい小柄の女の子で、ショートカットの顔立ちの整った女の子だ。杖を持っているのは悪路対策のためだろうか。
「なあ、セイラ。俺はこれからグリムの町に行きたいんだが知っているか?」
「うん、だってこれから私、そこにいって買い物行くんだもの。それにしても、タカシって見慣れない格好しているね、どこから来たの?」
平山は今までのことをセイラに話した。セイラの目はその話を聞くと目をキラキラ輝かせ
「じゃあ、タカシって見る者なんだ!私感激だよ。まさか見る者に出会えるなんて幸せ満開だよ。」
セイラのはしゃぎっぷりから見る者の存在はよほど特別なようだ。平山はセイラに自分は来たばかりでこの世界についてほとんど何も知らないことを話した。するとセイラは平山にいろいろなことを教えてくれた。森の中の危険生物、薬草、食べられる植物や果物、おいしい肉や危険な生き物など。そのとき、あの動く植物はフローラルという名前で不気味だけど足のような根っこは薬になること、葉っぱは釜で炒ってから、それをお湯にそそぐと甘くて優しい香りのする飲み物になること、花の部分は虫除けになるなど、危ないものどころか非常に有用な植物だということを知った。セイラの話がまだ終わらないうちに二人はグリムの町に到着した。『ようこそ、グリムの町へ』と書かれたアーチ状の看板が二人を出迎えた。街の中に入り平山の目に飛び込んできたのは、ヴァイオリンを弾くもの、それを見て膝をたたいて喜ぶ聴衆、かとおもえば町のど真ん中で酒盛りをしている人々であった。
「おいおい、セイラ。今日は祭りかなんかあるのか?」
「いつも、こんなもんよ。お祭りがあったってなくたって、お酒があれば盛り上がるし、楽器を奏でれば集まるし。二、三人集まったら歌を歌うべしってね。」
そういってセイラは平山の方を見ていたずらっぽくウィンクをする。ふと何かに気が付いたようにセイラが小走りで走り出す。そのあとを追いかけていくと掲示板の目の前についた。『今夜、英霊が訪れる。粗相のないように』と書かれていた。
「何が英霊よ、ただの略奪者じゃない。」
セイラは掲示板を蹴飛ばしながら文句を言う。
「おい、セイラ。英霊って何だ?」
「そういえば説明していなかったわね、英霊っていうのは死者たちのことよ。あいつらは自分たちで勝手に英霊って呼んでるだけよ。」
死者たちが暴れている。それは平山が老人から聞いた話だ。そしてそれは夢世界でなく現実世界にも影響を及ぼしていることを。夢の世界の住人であるセイラにとっては脅威以外何物でもないのだ。そしてこの英霊は以前から女を要求していて今夜やってくるというのだ。
「その英霊っていうやつ俺が倒してやるよ」
平山はポンとセイラの頭をたたきながら言った。
セイラはそれを聞くとくすくすと笑いながら
「いくらタカシが見る者でも、それは無理だよ。そうそう、見る者が注目される理由って知ってる?」
見る者が注目される理由?
平山は今まで考えてもいなかった。
「いや、知らない。」
「それは、見る者は不死身ってことよ。」
不死身ってことに平山は一瞬言葉を失う。その様子を見てセイラが
「ふ~ん。知らなかったんだ。サム爺さん教えてくれなかったんだ。少しボケちゃっているのかもね。」
「不死身って何があっても死なないのか?それにサム爺さんって誰だ?」
平山はさらに混乱する。
「サム爺さんは森を抜けた花畑の小屋に住んでいるおじいさんよ。見る者が世界樹から現れるのを待っている守り人よ。世界樹っていうのはタカシが最初に見た大きな木のことよ。」
セイラの話を聞いて老人の名前を初めて聞いた平山だったが自分が不死身の存在だということも初耳だった。
「不死身だったら無敵じゃないか。なおさら任せてくれよ」
セイラはじっと平山の顔を見つめ
「そうね、でも一人じゃ危ないから同じ見る者と一緒の方がいいと私は思うよ。いる場所案内するからついてきて」
そう言ってセイラは目的地に向かって歩き始めた。セイラの後についていくと一軒のお店の前についた。
「このパブにタカシと同じ見る者がいるって話よ。見たことはないんだけれどね。」
セイラが扉を開けると中には何人かの客がすでに席に座って酒を飲んでいた。
「ねえ、マスター。見る者を連れてきたんだけど、今お店に見る者はいる?」
「おお、セイラちゃんか、居るよ。ほら、奥に座っている奴さ。」
そう言ってマスターは指をさす。マスターが指差した先には、けだるそうに酒を飲んでいる男が座っていた。