第2章~夢への誘い~
「お願いです、助けてください。」
平山の耳元に切実な声が聞こえる。その声は小さくて今にも消えそうな声だったが、透明感のある
とても美しい声だった。
「お願いです、もし私の声が聞こえていたら夢の世界をお助けください、見る者よ。」
眠りについている平山の耳元に美しい声がなおも響く。
夢の世界?
夢ってたまに見るあの夢か?
平山の疑問に対し声が答える。
「はい、その夢です。あなたたちがいつも・・・見るあの・・・夢です。」
声に若干ノイズが入っている。まるで電波状態が悪いラジオみたいに。
「よし、分かった。やってやるよ」
平山は声に対しそう答えると、
「あ、ありがとう・・・ござい・・・ます。」
消え入りそうな声はそういって完全に消えてしまった。
夢の世界か。夢ならいいか。夢だし。
そう思っていると平山は無限に落下していく感覚に襲われていく。落ちる夢を見ているようだ。
次の瞬間、真っ暗闇が突如晴れると平山はその風景に心を奪われた。
平山は一面芝桜の平野に立っていた。周りには南アルプスを思わせる山々がパノラマ状に
広がっており、そばには木が一本立っている。その絶景に平山はしばらく立ち尽くしていた。
よく周りを見渡してみると山脈は壁のようにそびえ立っているが周りをかこっているわけではなく、山脈との反対側は一面に広がる芝桜の平野と一軒の小屋、そしてその先にはうっそうとした
雑木林らしきものが広がっていた。平山は周りの景色を見ながら
「夢みたいだな。あ、これは夢か」
とつぶやきながら一軒の小屋に向かって歩く。小屋に向かっている間に平山はいろいろなことに
気が付いた。咲いている花は芝桜だけでなく、黄色い花や白い花も色とりどりにあること。
けれどその花は小さくて数も少なかったため目立たないでいた。そうして景色を楽しみながら歩いていると目指していた一軒の小屋についた。平山は扉をノックして
「ごめんください」
というと、ギィィと扉が開いて杖をつき深緑色のローブを身にまとった老人が出てきて
「おお、お待ちしておりましたぞ、見る者よ。さあ、どうぞどうぞ。」
と平山を中に案内した。部屋の中はシンプルな作りで、木製の椅子が数脚と机が一つあり、その隣にはベッドが置いてあった。
「お待ちしておりましたぞ、見る者よ。どこでも好きなところに座ってくだされ」
老人に勧められ
「では、失礼します」
と平山は手前にある椅子に腰かけた。老人は平山の目の前に腰かけ
「どうじゃ見る者よ、夢の世界の感想は」
と聞いた。
「見たことのない素晴らしい景色です。でも、正直何がどうだっているのかさっぱりわかりません、それに見る者ってなんですか?」
と平山は答える。
「そうじゃろうな、では少し夢の世界について話を使用かのう」
そういって老人はこの世界について話し始めた。
「この世界は夢女神フレイヤ様が創り出した世界で、見る者が夜寝ているときに行ける世界じゃ。見る者とは夢を見る者が由来での。現にお主は今、夢を見ているじゃろう。だから見る者じゃ。ところが今、夢の世界に異変が起きての。死者たちが現れて、この世界を荒らしているんじゃよ。奴らは悪夢を退治できるバクを捕まえてしまっての、その結果、悪夢が増えてしまって手におえないんじゃよ。あぶれた悪夢はお主たち生者の世界にも影響を与えているはずじゃが、心当たりはあるかの?」
老人の質問に平山は
「心当たりといえばなんですけど、今、一度眠ったら目覚めないという病気が流行っています。あと、影と呼んでいる化け物がいてあっちこっちを滅茶苦茶にしています。」
「その奇病じゃがおそらく死者たちの仕業じゃの。死者はこの夢世界で肉体を維持するのに生者の精神を糧にしてるのじゃ。だから一度この世界を訪れた生者を監禁して精神力を吸収しているのじゃろう。あと、その影こそがまさしく悪夢そのものじゃ。そうか、やはりお主の世界にも影響が出ていたか。」
そういって老人はため息をつく。
「でも大丈夫っすよ。俺の世界には正義のスーパーヒロインがいますから。」
スーパーヒロインという聞きなれない言葉に老人は
「何じゃそれは?」
と平山に聞き返す。
「俺たちの世界には、その影をブッ飛ばす女の子がいるんですよ。何せレーザーやら
ミサイルが効かない相手をぶん殴って必殺技のビームで影を消し飛ばしちゃうんですよ」
平山は少し興奮してヒロインのことを説明する。老人は少し首をひねり
「お主の言うことはよく分からんが、悪夢を倒す娘がいるっていうことじゃな」
と答えた。
「まあ、そんな感じっす。ところで俺は何をすればいいんですかねえ。死者の連中をやっつければいいんですか?」
という質問に
「焦るでない、死者たちの力は強力じゃ。まずは仲間を集めなされ、死者を倒せるのは見る者だけじゃ。何故なら夢の住人で奴らを倒せたものはいないからの。お主ら見るものだけが頼りなのじゃ。」
「わかったぜ、じいさん。でも仲間ってどこ探せばいいんだ?」
「この小屋の先に森があるじゃろう。この周りは山と森しかないから、すぐにわかるはずじゃ。小屋を背にしてまっすぐ進むと森を抜けてグリムの町につく。あとは何とかなされよ」
「ずいぶんとアバウトな道案内ですね。まあ夢だし、何とかなるっしょ。いろいろ教えてくれてありがとな、じいさん。夢の世界は俺に任せときな」
そういって平山が小屋を出ようとしたとき、老人が大きな声で
「待ちなされ、見る者よ。」
と平山を呼び止めた。
「えっ、じいさん、まだ何かあるんですか?」
「森にはいろいろな生き物がいるんでの、これを持っていきなされ」
そういって老人は一振りの剣とリュックサックを平山に渡した。
「これって本物の剣?」
「偽物渡してもしょうがないじゃろ、森には危険な魔物もいるからの、何もないよりはましじゃろ。あと旅の最中には荷物も出るじゃろうしな。」
平山は腰に帯剣用のベルトを巻き、剣を装備した。
「よし、じゃあ行ってくるぜ。期待して待っててくれよ」
そういって平山は意気揚々と小屋を出て行った。
静まり返った小屋の中で老人は
「やれやれ、大丈夫かのう」
とつぶやいた。