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親分の卒業宣言

作者: 灯宮義流


 その日、紅白組の組員達が全員集められた。ボスから今後の組の方針に関する宣言があるとのことで、みんな緊張していた。

 組員達は、久しぶりに召集されたこともあって、最近の自分の事情などを話しながら、ボスの登場を待った。

 ざわめきの収まらぬ中、ついにボスはやってきた。恰幅の良い体格をした、スキンヘッドの威厳のある人だった。

 彼は、とても深刻そうな顔をしていた、むしろそれを通り越して青い顔をしているようにも見えた。

「まさか組の解散?」

「いやこれは……もしかしたら、どこかの組に吸収されてしまうとかじゃ」

「ヤバイやんか。もし敵対してる満十組なんかと混ぜられたら、終わりやぞ!」

 ボスの只ならぬ形相に、組員達は焦ってそれぞれの勝手な憶測を話し始めた。彼等は、ボスが目の前にきたことを忘れているようだった。

「おお、みんな集まっているな」

「あ、ボス」

「これから大事な話があるから、まず黙ってくれ」

 組員達は、全員電灯がスイッチで消されたかのように、ピシッと黙った。ボスは、それを確認すると、一つ頷いて、首のネクタイを締めなおす。

 そして、喉をウウンと鳴らして声の調子を整えると、先ほどのような深刻な顔で話し始めた。

「俺な、ボスを卒業しようと思う」

「ええ?!」

 その言葉に、組員達は騒然とした。はっきりいって、意味がわからなかったのだ。

「ボスを卒業って」

「俺な、もう十分ボスやっただろ。だからもうそろそろ卒業しても良いと思って」

「そうかもしれないけど、辞めるとかじゃなくて、どうして卒業なのですか?」

 するとボスは、信じられないといった顔で、組員に答えた。

「お前なあ、辞めるとか無責任なことしたら末代までの恥になるだろう」

「じゃあつまりは、辞めるという事を言い換えただけですか?」

「そうじゃねぇ。卒業するんだから、俺は今までのボスとしての全過程を終了したことをお前らに認められないといかん、だからお前達には卒業式をやってもらいたいんだよ」

 エー! という驚きと不安と焦りと不満の声が同時に各々からあがった。ボスは、その反応にイラッとして、眉間にシワを寄せる。

「なんだオメエラ。俺がボスとして足りないところがあるとでも言うのか」

「いいえ、そんなことはありません。早速卒業式を準備いたします。いくぞ野郎ども」

 組員達は、それぞれ複雑な感情を背負いながらも、ボスの卒業式の準備を始めた。







「これより、卒業式を始めます」

 気持ちだけの精一杯の歓声が巻き起こった。皆ボスを慕っているが、いきなり変なことになって、戸惑っているのだ。

 出席者達は最初集まった組員だけ、場所もさっきと同じ、違うのはパイプ椅子が並んでいるのと幕が下がっていることくらいだった。

「それでは壇上にお願いします」

「お、おう」

 ボスご自慢のスキンヘッドに、冷や汗がたくさん湧き出ていた。ボスは実を言うと、緊張しやすい性質だった。

「卒業証書授与……やりづれぇ」

「な、何か言ったか?!」

 あまりにも緊張してしまって、片腕的存在である彼の本音に、思わず口が出てしまったのだ。

「い、いえいえ。では恐れながら、証書を授与させていただきます」

 ワーッとまた歓声があがった。何分彼等は荒仕事に忙しくて、卒業式のやり方を忘れていた。

「静かにしねえか馬鹿ども! 卒業式ってのはもっと静粛にやるべきなんだ!」

『へ、へい! すいません!』

 組員達は、まるでよく管理された機械の動作のごとく、ピッシリと頭を下げた。

「では気を取り直して……」

「大変です!」

 すると、卒業式の最中だというのに、一人の組員が慌てて中に入ってきた。皆が、ギロッとその乱入者に視線を集中させた。

 その威圧感に押されながらも、彼はなんとか声を絞り出して報告した。

「五郎の奴が、満十組の奴に殺られました!」

「なんだとぉ?!」

 ボスが思わず声をあげて憤った。それを聞いて、ボスの片腕である彼が、ボスに言った。

「……ボス。まだこの証書は渡せませんね。満十組の奴等潰して、ようやく卒業ってことにしましょうや」

「そうだな。いくぞ野郎ども! 奴等を血祭りにあげてやれ! 弔い合戦と卒業試験だ!」

 おーっ! と、今度は気合の入った組員達の絶叫とともに、幕は引き裂かれ、パイプ椅子は倒され、会場は無茶苦茶となった。

 人が皆出払った会場に残された片腕と、報告にきた男は、ひそひそと話し始めた。

「これで卒業なんてボスはやめてくれるよな」

「五郎が死んだなんて嘘ついて、これは賭けですよ」

「いや、ボスにハッタリは通用しねえから、俺が殺した」

「えっ」

「悪いと思ってるが仕方ない話だ。その分俺達が頑張ってやるしかないだろう」

「……」

 二人は、五郎の尊い犠牲に対して冥福を静かにささげると、ボスの後を追った。







「俺を組員にしてください!」

 その頃、満十組で五郎という血まみれの男が仲間入りを果たしたことを、紅白組はまだ知らない。

電撃リトルリーグ第二回作品。「卒業宣言」からタイトルだけ変更して掲載。

山篭りする前に追い詰められて書いた、かなり背水の陣の感覚がよく見える作品でした。はっきりいって駄作ですが、一応これも一つの糧ということで。

さて、近況ですが、初めて投稿原稿を送りました。怪社を全改稿して、設定を見直したものです。もう少しライトノベルを意識した作品にしたんですが、どうなんだろうなあ。キャラの濃さには自信あるけど、一次も抜けられないかなあ。

あ、そもそもここに載せたままでよいのか。誰か教えてください。

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