新米女子は新しい友達をつくる の 1
駅まではそんなに遠くはなかった。事故に遭う前の浩太郎なら、歩いて十五分ほどの距離だ。
でも今は三十分以上かかる。
ゆっくり歩いてもらうみんなに、湊は申し訳ないという気持だった。
楽しげに話す三人に、湊は相槌だけを繰り返していた。
「三沢さんも、何か言ってよ」
好きなテレビ番組の話だ。
「えっ…… あまりテレビは見ないし。特にドラマなんて」
「そうなの? 歌番組とかは?」
驚いて尋ねたのは有紀だ。
「わかったアニメ派でしょ」
恵が茶化すように言う。
「アニメも見ない…… 妹が見てるのをたまに一緒に見ることはあるかな」
「妹のせいにするんだぁ。素直にアニメが好きって言ってもいいのよ」
「ホントだって、自分からは見ないよ」
「そういうことにしておいてあげるわ、それにしても三沢さんって、声が低くてかっこいい。わたしってちょっとアニメ声じゃない? だから低い声って憧れるのよ」
恵の言葉にドキッとする湊。声変わりはまだだったときに事故に遭ったので、野太い男子の声ではない。しかし女子らしい声でないのも確かだった。
「あ、ありがとう」
ばれないか内心ドキドキしながら、少し高めの声で応えた声は、上ずったみたいな声になってしまった。
「ところでさぁ。三沢さんてどうしてこの高校選んだの? 家から遠いし、その体じゃ通学が大変じゃない」
恵が尋ねる。
「え……」
真面目に答えたなら、中学の同級生に女子になった姿を見られたくなかったからとなる。しかし、今の湊にとってはまだ知られたくないことだった。
「あ、言いたくなかったら答えなくていいのよ。ねぇ恵」
理沙が湊の表情を読み取る。
言いたくない理由となると、だいたいがいじめだ。そんなふうには思われたくなかった。
「あの、その……前の同級生が先輩っていうのがいやだったからかな」
とは言ったものの、同学年のことは確認していたが、上級生の進学状況は確認していない。多くはないと想像はできるが、いないとはいえなかった。
「そっかぁ。そうよね」
「相手にもよるかもしれないけどね。ちなみにわたしは、大学への進学率かな。入学のときの偏差値の割に、進学率がいいっていうことはしっかり教えてくれるっと思って」
「それって、授業の密度が高くてたいへんってことじゃないの?」
恵の言葉に、湊が指摘をする。
「そうだったのかぁ。だまされたぁ」
「ちなみにあたしは家から近いから」
「有紀の家ってどの辺?」
「さっき過ぎた」
「近っ!」
「じゃあどうして、帰らずについてくるの?」
「理沙っ! あたしだけ、仲間外れにする気? だいたい学校と家との間には寄り道するところが何もないのよ。朝が楽かなって思ってたけど、帰りの楽しみがないなんて、大誤算だったわ」
「ハハ」
「三沢さん笑った」
と有紀。
「ごめん。なんかおかしくて」
笑ったことで気を悪くしたのではと思い謝る。
「良かった」
安心した表情で、理沙が言った。
湊はそれで気付いた。
自分が今日の今まで、暗い表情しかしていなかったと。
人一倍の緊張と不安で、笑顔なんて作れる余裕はなかったとはいえ、身体の状態に加えて、そんな表情だったから、理沙たちは心配しくれていたのだと。
その後、他愛もない内容だったけど湊は積極的に話すようにした。表情も強張らせないように気をつけて。
まもなく駅に到着し、湊はみんなに見送られて改札を通った。
急に寂しさを感じた。
リハビリに行こうとしていたのは間違いない。
けど予約をしていたわけでもない。休んでも構わなかったのだ。
今度誘われたら、少しだけ行ってみようかな。湊はそう思った。