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湊がみんなと奏でるストーリー  作者: 輝晒 正流
第十五話 新米女子に恋の話
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新米女子に恋の話 の 3

 理沙と聡美と有紀が教室外で話している頃、恵が教室へ戻ってきて、湊の席へやってくる。

 「あれ? 理沙たちは」

 常に湊のそばにいる訳でもないことを分かっていても、理沙たちにも聞いて欲しい話だから、ついそう言ってしまう。

 「さあ」

 「まあいいわ、そんなこと。それより大変なことになってるわよ。一組の方。宮田君のクラス」

 恵の言った言葉だけでは、その場にいた、湊、翔、肇、そしてラブレターが気になって集まっている女子たちのだれも理解できなかった。

 「だからぁ。一組の方では男子トップ入学の宮田君は女子には大人気でしょ。で、湊はその宮田君にラブレターを渡された男たらしとか、尻軽女とか言われてるわよ。しかもその告白を断った生意気な女子って」

 疑問の視線に応えて、恵は声を抑えながらそう言った。

 声を抑えた理由は、廊下からのただならぬ視線を感じていたからだ。

 一志は成績優秀で、さらにハンサムだから、自分の一組だけでなく、学年全体の女子に人気だ。もちろん湊のクラスでもだ。

 そんな一志からラブレターを受け取ったとあれば、嫉妬の対象になるのは仕方がない。しかも断ったとあれば、安心するものもいるだろうが、生意気だと受け取られるのは仕方がないことだ。なんといっても、その女子は宮田一志よりも成績上位という噂になっているのだから。

 幸い湊のクラス内でそのような状態にならないのは、普段からの湊のことを知っていて、かつ一志と湊の間に起きたことを間近で見ていたからだ。そんな状況を知っていて、湊を悪く言う者などいるはずがなかった。

 しかし、廊下からはヒソヒソと悪口のようなことも聞こえてくる。

 「そんなの誤解だ。完全な言掛かりだよ」

 湊を取り囲むクラスメイトたちも同意見だが、状況は湊にとっては都合が悪い。

 なんといっても、これから『男でした』と発表されるのだから、障害は少ないほうがいい。


 次の休憩時間までにそのことは理沙たちにも伝わっていた。

 そう思って廊下を見ると、自分へ向けられた視線が、普通ではないことが湊にもはっきりと分かった。

 「とんだ災難だ」

 湊は近くにいる理沙と恵と聡美にだけ聞こえるくらいの声でつぶやいた。

 しかし、一志を悪く言ったのではなく、タイミングのことだけだ。女の格好をしている自分にラブレターを出したことを、とやかく言う権利がないことくらい湊は自覚していた。

 「ホント」

 理沙が湊のつぶやきに応えた。彼女のは一志の行動に対して言ったものだ。

 「モテる男子は自分の行動に責任を持って欲しいよね」

 恵も理沙に同意見だ。

 「はあ。これが本当に謝罪文だけならいいのに」

 湊は手紙を入れた内ポケットのあたりに軽く手を触れる。

 「なんだ。まだ見てなかったの?」

 聡美の驚きに、湊は不満顔で応える。教室に閉じこもっているのに、手紙を見ることなどできないのだと。

 「けど、僕みたいなののどこがいいんだか……」

 客観的に男目線で、女としての自分を見たとき、美人でもなく可愛らしくもなく、胸も小さく、身体が不自由で、言葉遣いは男の子っぽいというか男そのものだ。何ひとつとして魅力が見つからなかった。

 「和田君と宮田君がケンカになりそうになったとき、湊が謝って収めたでしょ。自分を護るために謝ってくれたんだって思ったんじゃない?」

 「いやいや、聡美は分かってないね。病弱とかケガした女の子に対して保護欲をかきたてられるものなのよ。男ってやつは」

 恵が知ったかぶる。

 「ていうか、湊が一番分かるんじゃないの?」

 「えっ?」

 理沙の言葉に、なんでと思った湊だったが、彼女たちから見れば男だった湊の方が男の心理に詳しいと思うのは当然だ。

 「好みは人それぞれだから……」

 言いながら、湊は顔が真っ赤になるのを感じていた。一志の理想の女の子が自分だなんて考えてしまったことが、とんでもなく恥ずかしかった。

 「あら、湊。なに赤くなってるの?」

 教室に入ってくるなり、そう親しげに話しかけてきたのは、青木志保だ。三年で美咲の親友で、茶話会のときにも同席していた。

 先輩だと気付いて、理沙たちは立ち上がりお辞儀をする。

 「あ、いえ別にこっちの話で」

 「告白されたの思い出してたんじゃないの?」

 志保は声を潜めて言う。

 「違います!」

 告白がらみなのは間違いないが、告白を喜んでいるようにとられては心外だ。湊は全力で否定する。

 「ていうか、どうしてそんなこと知ってるんですか?」

 「何言ってるの。もう全校で話題よ」

 それは少し大袈裟だったが、“美咲のお友達を気に掛ける者”の間には素早く情報が回っていた。

 「そんなぁ」

 真に受けて湊が嘆く。

 「そうそう、伝言。希世子がお昼一緒に食べようって。迎えに来るから待ってて」

 西林希世子は美咲の親友で演劇部の部長だ。

 「わざわざお迎えなんて……こっちから行きますから」

 「いいからいいから。美咲もそうしろって言ってたから。じゃあ伝えたからね」

 明るく言うと志保は、廊下へと眼を向ける。

 睨むような目で湊たちを観察していた女子たちが、サッと視線を逸らす。

 その女子たちの間を、志保は面白そうに帰っていった。


いつもお読みいただきましてありがとうございます


たいへんお待たせしました

スローペースですがこれからもよろしくお願いします

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