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湊がみんなと奏でるストーリー  作者: 輝晒 正流
第十五話 新米女子に恋の話
66/73

新米女子に恋の話 の 1

サブタイトル未定です

2018/5/23 サブタイトル「新米女子に恋の話」

 ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


 月曜日の朝。

 湊が家を出る頃は晴れていたのが、今では晴れ間のない空となっている。

 ほとんどの生徒がすでに登校している中、湊はまだ学校に着いていなかった。

 聡美と恵は理沙の席に集まって声を抑えて議論していた。

 有紀はそのグループに入れず、ひとり自分の席にいた。湊に対してしたことを怒っている聡美に、もう謝ったからと、普通に話しかける神経の太さを有紀は持ち合わせていなかった。

 だから湊と有紀が仲直りしたことはまだ理沙たちに伝わっていなかった。

 「今日は首根っこひっ捕まえてでも、有紀に謝らせるわ」

 聡美の言葉に、

 「無理やりなんてダメよ」

 と理沙が諌め、

 「そうそう、本心からでないと、意味がないよ」

 恵も理沙の意見に同意した。

 聡美もそんなことは分かっていたが、湊が男であっても女であっても、明らかに悪いのは有紀であって、それを理解していないなら、言っても理解しないなら、聡美は友達でいられないと考えていた。


 既に一時間目の授業は始まっていたが、湊はまだ教室にいなかった。

 これまでもしばしば遅れてくることがあったので、誰もそれほど気にはしていない。

 十五分程遅れて湊が教室に入ると、全員の視線が湊に向き、いつもと違うことに半数ほどの生徒が気付く。

 「どうしたの? 杖」

 理沙が気になって尋ねる。

 その言葉で、残りのほとんどの者も気付く。

 「遅れてすみません」と教師に向かって謝り、授業中なので「後でね」と理沙に向かって言った。

 いつもは松葉杖を両側で使っていたのに、今日は右側だけで、歩きにくそうにしていた。

 さらにわずかな者は、湊の険しい表情にも気付いていた。

 「保健室に行かなくても大丈夫?」

 隣の席の翔が心配して尋ねる。

 「今はまだ大丈夫」

 答えた湊の表情には、心配する相手を安心させるいつもの笑顔はない。

 「何ページ?」

 辛そうな表情で、湊は翔に尋ねた。

 翔は小声でページを告げて、教科書を開いて向ける。

 「ありがとう」

 辛そうにしながらも、湊は礼を言う。

 両肘をついて身体を支えながら、湊は教科書をめくる。

 そして時折、腰に手を当てたり、擦ったりしている。

 そんな湊を、翔も理沙も聡美も、そして有紀も心配して見ていた。

 授業が終わると、慌てながら理沙たちが駆けつける。

 最初に言葉を発したのは、聡美だった。

 「有紀のことだけど……」

 「有紀のことはもういいから」

 言い終わる前に、湊はそう言った。

 聡美には、その言い方が面倒くさそうに感じ取れた。だから、湊も有紀を見限ったのかと疑ってしまった。

 がそうではなかった。今の湊には仲直りを説明する余裕がなかっただけだ。それに他の人がいる場所でする話ではない。

 「大丈夫ですか?」

 授業中の湊の表情を一番よく見ていた翔は、そう尋ねはしたが、誰の目にも全く大丈夫には見えなかった。

 「大丈夫じゃ……」

 大丈夫じゃないと言おうとした湊の言葉を遮って、理沙が尋ねる。

 「杖はどうしたのよ?」

 「今は元木君の質問中だよ」

 不機嫌そうに湊は言って、腰をさする。

 「転んで腰でも打ったんですか?」

 質問の順番を返してもらった翔が再び尋ねた。

 「バカねぇ。女の子が腰をさすっていたら、あの日って決まってるでしょ」

 「ああああ…… ごめなさい!」

 恵の冗談に、翔は取り乱す。デリカシーのない男と思われたのではないかと心配したが、湊は何も気にした様子はなかった。というか、気にする余裕すらないという感じだった。

 「そんなんじゃないよ。天気が悪くなってくると、ケガのあとが痛むんだ」

 「年寄りくさいなぁ」

 湊の言葉にそう応えたのは、恵だった。

 恨めしそうな顔を向ける湊に、恵は「ゴメンゴメン」と笑って謝る。

 「家出るときは晴れてたのに、どんどん天気が悪くなってきて、しかもこんなときに杖が片方だけだったから、余計に負担になっちゃって」

 「それで、どうして杖が片方だけなのよ」

 それを聞きたかった理沙が改めて尋ねる。

 「お医者さんに言われたんだ。両側で杖を使うと、杖に体重を掛けるから、良くないって。脚自体が悪いわけじゃないから、リハビリのために、どんどん脚を使えって。どうしても杖を頼るようなら、片方にしなさいって。そしたら、こんな天気で……最悪」

 腰から背中にかけてさすりながら、説明する湊。

 「こ、これを貼れば?」

 そう声を掛けてきたのは有紀だった。手にしているのは貼るタイプの使い捨てカイロだ。

 「ママが古傷が痛むときは温めるのが一番って言って、いつもこうしてるから」

 「ありがとう。有紀。助かるよ」

 有紀と湊の間にあった出来事を忘れたかのような二人の会話に、理沙と聡美と恵が驚く。

 「たまたまカバンの中に残ってた物なんだし、別にお礼なんていらないんだから」

 有紀は恥ずかしさを誤魔化すように、少しばかり突き放しぎみに言う。

 受け取った湊は、袋を開けて、ブレザーの下のブラウスに貼ろうとするが、背中側での作業がうまくいかない。

 「翔。手伝ってやれよ」

 いつの間にか近寄っていた和田肇がからかって言う。

 「ぼ、僕がぁ!?」

 指名された翔は驚き慌てる。

 「頼めるかな」

 そう言われてさらに慌てる。

 そして湊から手渡されたカイロを持って、翔は湊の背中を見て固まっている。

 無自覚に湊がお願いしたことは、おくてな翔には全く不可能な行為だ。女子のブレザーをめくり上げて、ブラウスの上からとはいえ身体に触れるということなど。しかも少し余計にめくれば、そこにはブラジャーのラインが目の前に現れるはずなのだ。

 周囲のみんなが面白がって見ているのを、有紀だけは落ち着かなかった。湊が辛そうにしているのに、周りのみんなが冗談を交わしていることが、堪えられなかった。

 「わたしがやるわよ」

 そう言って有紀は翔からカイロを乱暴に奪い取る。それは、湊を突き飛ばしてしまったときのように、ただ単に普通に男子に声を掛けて受け取るということが出来ないための行動だ。

 自分がやると言ったものの、状況は翔と似たようなものだった。男子が苦手な有紀には、男子にしか思えていない湊の服をめくってカイロを貼るということは、恥ずかしさが限界に達しそうだった。せめてもの救いは背中側だということだ。湊の顔が見えないために、カイロを貼るという作業に徹することで、何とか堪えてやり遂げた。

 「ありがとう」

 痛みを堪えて振り返りお礼を言う湊は、笑顔だった。

 「別にお礼なんていらないんだからね。もたもたしているのが見てられなかっただけなんだから」

 緊張のせいか強い口調で言うとさっさと自分の席へ戻ってしまった。

 その様子が、以前の湊の周りにたむろしていたときとは違いすぎて、みんな疑問符を浮かべる。

 そして、新たな出来事がこの直後に起こった。


いつもお読みいただきありがとうございます

そして、たいへんお待たせしてすみません


当初の予定になかったシーンを追加することにしましたので、余計に時間が掛かっています。

それに年末年始が公私共に非常に多忙なため、次の掲載は一月中旬以降とさせていただきます。

誠に申し訳ございませんが、ご理解のほどよろしくお願いします


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