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湊がみんなと奏でるストーリー  作者: 輝晒 正流
第十四話 新米女子とホントの気持ち
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新米女子とホントの気持ち の 1

 写真部の部室に入ってきたのは、新聞部部長の田村優佳と一谷美奈代の二人だけだ。

 「今日はよろしくお願いします」

 「こちらこそ、お願いします」

 穏やかな口調で挨拶をするのとは裏腹に、有紗は鋭い目つきで二人を睨む。

 「優佳さん、一谷さん。お手柔らかにお願いします」

 机に手をついて立ち上がり、挨拶をする。

 湊が新聞部部長を下の名前で呼んだことに、みんなは少し驚きの表情をした。

 「どうぞよろしく。では早速はじめてもよろしいですか?」

 優佳がにこやかに言いながら、湊と久保部長、それに美咲に視線を移しながら尋ねた。

 「はい」

 そう答えて、湊は座りなおした。

 向かい側の席には優佳が座る。

 美奈代は小型のデジタルカメラを用意して、取材の様子を撮影し始めた。

 対して写真部のみんなは、周囲を取り囲むようにいろんな方向から、湊や新聞部の二人を撮影する。

 久保部長は三脚を立てて優佳の背中越しに湊にカメラを向けている。有紗は湊の背後から新聞部の二人の表情を追っている。二人の位置はお互いがフレームに入らないようにしている。

 二年の二人、佐藤博と渡辺孝太郎は湊と優佳の横顔を狙っている。

 一年の二人、岩永広幸と立花友香は博と孝太郎の後ろにいて、美咲を含めたみんなを撮影して、取材状況を記録している。

 「では、一年七組三沢湊さん。出身中学は?」

 「高槙原中学です」

 「この高校を受験したきっかけは?」

 「お医者さんがいて安心できそうだったからです」

 一番の理由ではなかったが、身体のことを話せていない今は、とりあえずそういうことにしておいた。

 そういう感じで、一問一答で進んでいく。入試トップのインタビューということもあり、はじめは好きな教科や勉強方法の質問だった。その後プライベートな質問に移っていく。

 「将来の夢は?」

 少しの間考える。幼い頃確かに夢は持っていた。でもそれは叶うはずのない夢物語で、事故の前に持っていた夢も今では同じことだ。

 「今はまだありません」

 リハビリの効果が表れて、身体がどこまで快復し普通の生活に戻れるか分からない。しかも女性になってからまだ、女性としての将来がどのようなものがあるのか、具体的な職業を考えたこともなかった。

 「好きな食べ物、嫌いな食べ物は?」

 「基本的に嫌いなものはないです。ただグレープフルーツは薬との相性が悪いので食べられません。好きなものはスイーツ全般ですね」

 「今一番欲しいものは?」

 普通の女子なら、ここは服とかアクセサリーとか答えるのだろうかと湊は考える。

 そういうものに興味はないが、制服以外に女物の服をまだ持っていないので、いずれ必要になると理解しつつも、女の子らしい服装などしたくないというのが本音だった。だいたい、みんなが見るようなインタビューで欲しいものを言うなんて、まるでおねだりしているようだ。そんなことは湊のプライドが許さなかった。

 「特にないです」

 「恋人はいますか?」

 「今はいません」

 奏の笑いかける顔が瞼に映り、湊は目を伏せる。

 「募集は……」

 「しません!」

 語気を強めたのは、恋人は今でも奏だけだという気持ちの表れだ。

 「女子のインタビューでは決まりの質問なので後ひとつお願いね。好きな男子のタイプは?」

 怒ったとでも思ったのか、断ってから質問をした。

 美咲が背後でクスっと笑う。

 「考えたこともないです」

 いつか心も女性的になっていくのかと不安に思いながらも、湊は男を好きになれるとはまだ思えなかった。

 どうやら用意されていた質問は、それで終わりのようだった。

 ここまでの答えた内容を思い出してみて、なんともつまらない記事になるだろうなと湊は想像する。

 「あのう、僕の身体のことを掲載してもらってもいいですか?」

 「もちろん」

 湊の言葉に、優佳は身を乗り出した。

 「実は僕は中学の時まで、男だったんです」

 湊が言うと写真部の中からクスッと笑った声がした。きっとウソを話し始めたとでも思ったのだろう。

 笑い声を聞いて美奈代も冗談に付き合わされるんだと解釈したようだ。

 「ふーん、続けて」

 優佳がみんなに合わせて軽い口調で促す。しかし、その目は真剣だ。美咲から湊が大事な話をすると、やはり聞いていたのだろう。

 「僕が中学の時、事故に遭ったのは、もうご存知と思いますが、そのとき、僕の恋人も事故に遭いました。僕は下半身を潰されて、亡くなった恋人の下半身をそのまま移植されて、助かりました。それから僕は女になりました」

 「事実はそのまま伝えても、相手には十分伝わらないんだ。相手の興味のあることとかを交えて、さらに嬉しいことはより嬉しいように、悲しいことはより悲しいように誇張して表現すると相手も心が動いて、真剣に受け取ってもらえると思うよ。そういうふうに書いてあげようか」

 「湊。ちゃんと最後に“なんちゃって”を付けないとホントのことだと思われてるでしょ」

 有紗が言う。まだ嘘だと思っているのだ。

 「どんなネタで笑わせてくれるのかと思ったけど、自虐ネタとは三沢さんも意外な一面をもっているのね」

 美奈代も信じていない。

 「特別な話をするって言ったでしょ。今のは本当の話だよ。彼女が白血病になった時、僕が骨髄ドナーになって、恋人同士になったんだ」

 「またまたぁ。しつこいと冗談にならないんだよ」

 そう言う友香を湊は見つめる。

 「花園先輩も言ってくださいよ」

 湊が冗談だと言わないので、友香は美咲に振る。

 「湊から聞いた後、阪元先生にも確認したわ。間違いないことよ」

 「本当なの!?」

 いまだ信じられず、友香は湊に詰め寄る。

 「近いよ」

 「こんな涼しい顔して、だましてたの!」

 ほっぺたを引っ張る

 男だったことを怒ったのかと、湊は心配したが、違った。

 友香の表情は、みるみる曇っていく。

 「死んじゃうくらい苦しい体験をして、大切な人を亡くして、辛くて涙が止まらないくらいでもおかしくないのに、こんな顔して、いつも楽しそうな顔して、だましてたのね」

 むしろいつも笑顔な友香が、涙をこぼしていることに湊は驚いた。

 「泣かないでよ」

 「なんでも話して。辛かったら泣いてもいいんだよ。慰めてあげるからぁあーん」

 まるで年下の子に言うような言葉だったが、湊は嬉しかった。

 そして、カシャッ!と湊の持つ携帯電話のカメラがシャッター音を発する。

 「友香の泣き顔ゲット」

 「ちょっと消してよ」

 「泣かないでって言ってるのに泣くから……泣いてくれたから、僕の宝物にするよ」

 湊はそれをブレザーの内ポケットにしまった。

いつもお読みいただきありがとうございます


新聞掲載まで数日あるとはいえ、ついにカミングアウトした湊。

どうなっていくんでしょう。


今後もどうぞよろしくお願いします。

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