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湊がみんなと奏でるストーリー  作者: 輝晒 正流
第十三話 新米女子とみんなの気持ち
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新米女子とみんなの気持ち の 5

 放課後、部室だ。

 湊が行くと、みんなは既に集まっていて、上級生を中心に異様な雰囲気に包まれていた。

 「すみません。しばらく休ませてもらって」

 「無理すんなよ」

 「元気になってよかったわ」

 そう声を掛けてくれるが、すぐにもとの話し合いに戻る。

 「どうかしたんですか?」

 気になって尋ねる。

 「のこのこと敵地にやってくる新聞部に何を仕掛けてやろうかと、思案しているところよ」

 有紗が意地悪そうな顔をする。

 「例えば、扉を開けたら黒板消しが降って来るような?」

 古いマンガでしか見たことがない具体例を挙げて尋ねる。

 「それは却下だな。物理的なダメージが発生すると、弁償させられるかもしれないからな」

 久保部長がダメだしする。別に提案するつもりで言ったわけじゃないのに、と湊は不満に思い、今度は軽く提案をした。

 「じゃあ、インタビューの最後に“なんちゃって”とか付けてみましょうか」

 「それはいいわね。特に内容が絶妙な嘘だったらなおさらいいわね」

 ほとんど冗談だったのに、有紗がのってきた。

 「まったくいつまで新聞部を逆恨みしてるのかしら」

 呆れたようにそうつぶやく声を聞いて、湊は振り返る。

 「どうして美咲さんがここに?」

 「湊の大事な瞬間を見に来ましたの」

 そう言って湊に笑いかける美咲。

 「新聞部のインタビューがですか?」

 湊の言葉には美咲は微笑を返すだけだった。

 「でもさっきのイタズラやってみれば? “本当は男でした。なんちゃって”みたいに」

 美咲が湊の耳元にささやく。

 「それはなんちゃってにならないですよ」

 「でも近々、クラスで話すんでしょ? いっそ今ここで話してしまえば、クラスで話す練習にもなるし、新聞部の取材をもう一度受ける手間も省けるし、いいんじゃないかしら?」

 「……仕掛けましたね」

 湊は少し怒った顔をして美咲を見た。もちろんフリだけで、怒ってなどいない。

 美野里に入試トップをわざとばらさせて、新聞部のインタビューを受けさせて、男だったことを含めて話させる。新聞部の部長も美咲の友達だ。掲載の時期も調整は可能だろう。

 「お膳立てと言って欲しいわ。無理強いはしないから」

 まるで姉が弟をあしらうように、笑みを浮かべている。

 「すみません。ではせっかくなので、そのお膳は喜んで頂戴します」

 軽く頭を下げると、湊は大きく呼吸をしてから、美咲のところを離れて、写真部のみんなの輪に入る。

 「強烈なストロボをたいて、びっくりさせましょうか」

 まだ不毛な話をしている。

 「僕は相手が嫌がるようなことをするより、相手が負けたと思うようなことを見せつける方がいいと思いますよ。ここは写真部なんですから、写真撮影の技術なら、新聞部には負けないんでしょ」

 「当たり前だ。新聞部のただ被写体が写ってるだけの写真なんかより、遥かに芸術的な写真とか、ドラマチックな写真を撮れるぜ」

 部長が豪語する

 「じゃあ、それでいきましょうよ。話の方は、僕が特別な話をしますから」

 湊が言うと、一瞬部長の目が美咲の方を見たような気がした。

 「よし決まりだ。みんな機材の準備だ」

 部長が即決する。

 部長以外の部員は、今までの議論は何だったのかと不満を漏らしつつも、撮影技術を見せ付けることに異議はないようで、すぐさま準備に取り掛かった。

 ロッカーからカメラ機材を取り出し、三脚やストロボを取り付ける。

 取材対象が湊だから、必然的に撮影対象も湊となる。

 湊は席に着き、マスクを外す。ゴムのあとが、少し頬に残っていた。

 有紗が湊の服装や髪型を直す。

 普通にしているところをスナップ写真で撮られるのは平気だったが、モデルのようにさあ撮るぞとレンズを向けられると、すごく緊張して、湊は表情がヘンになりそうだった。いや、既になっていた。

 カメラテストとして何枚か撮影されたものを見せてもらうと無理やり笑った顔か怒ったような固い顔ばかりだ。これではいくら撮影技術がよくても、いい写真は撮れそうにない。

 「とびっきりの笑顔が欲しいな」

 孝太郎が言う。

 「湊。“じゅえり”になったつもりで」

 友香がいたずらっ子のような笑顔で言う。

 “じゅえり”とは、最高の笑顔で魔法を使って、みんなをハッピーにする魔法少女トレジャー&ステッキの主人公のことだ。しかもデジカメから消したはずなのに、ファイルを復活されて見られてしまった湊の恥ずかしいコスプレのキャラでもある。

 コスプレのことを知らない者もいる場所で、“じゅえり”のことを口にした友香に湊は墓穴を掘りそうで抗議は出来なかった。

 湊は求められる笑顔にならず、ただ恨めしそうに友香を見て、恥ずかしさに耐えていた。

 「湊。いつもの顔でいいわよ。そうねぇ。なにか楽しいこと考えてみて」

 表情を作ることを難しく考えすぎている湊に、有紗が助け舟を出す。

 湊は心を落ち着かせて、楽しいことを思い出そうとする。

 『楽しいこと? そうだ、おいしいケーキ』

 昨日食べたケーキを思い出す。それに秋菜の作ったご飯。食べ物ばかりだけど、幸せな感じになってリラックスできた。

 「表情よくなったね。じゃあこれ持って。やっぱ、写真部をアピールしなくちゃ」

 佐藤博がそう言って、一眼レフカメラを湊に手渡した。

 写真部の備品で手動巻き上げ式の一眼レフカメラだ。相当な骨董品だ。

 女子高生には不釣合いな重厚感があり、これぞカメラという雰囲気がある。

 「胸の前あたりで持ってみて」

 有紗の指示に従って、左手でレンズを支えて、右手でカメラ本体を持って、シャッターに人差し指を置く。

 湊以外の部員がそれぞれにカメラを構えて、湊を撮影する。

 「もっと笑って」

 久保部長が指示を出す。

 笑えと言われて、笑えるほど湊は器用ではない。再び表情を硬くしてしまった。

 「部長、カメラマン失格です」

 もうひとりの一年生、岩永広幸がボソッと言った。

いつもお読みいただきありがとうございます


次回湊のカミングアウトに、ほどほどに乞うご期待


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