新米女子とみんなの気持ち の 4
三時間目と四時間目の間の休み時間、湊はトイレで時間を潰してしまった。
四時間目の後の休み時間、つまり昼休み。
この日三人目のお客様は、料理部の大滝秋菜だ。
「一緒にお昼を食べませんか?」
わざわざ三段重ねの重箱を持参で微笑みかける彼女を、誰が追い返せるだろうか。
「ご一緒します」
若干引き気味に、湊が言う。
「理沙、恵、早くおいで」
手招きで呼び寄せる。
「うわ!」
恵が重箱を見て思わず口にする。
「先輩。どうしてここへ」
「お友達とお昼をするのに理由がいるの?」
理沙の言葉に秋菜が答える。
「そうですけど」
机を寄せて、場所を作り、お重を広げる。
その光景に、クラス中の生徒が唖然としている。
「いつもひとりでこの量を食べてる……訳ないですよね」
「今日はみんなと食べようと思って、用意してきたのよ。恵! 料理部がお弁当作らなくてどうするの」
秋菜の言葉に、コンビニで買ったと思われるサンドイッチを、手遅れとは分かっていたが恵は背中に隠した。
「湊はこれ使ってね」
湊に用意してきた箸を、恵に向けた表情とは打って変わって、にこやかに秋菜は手渡す。そして尋ねる。
「湊は好き嫌いあるの?」
「特にはないんですけど、入院生活のせいで少食で」
「そう、じゃあ無理せず食べられるだけ食べてね。こちらもどうぞ」
秋菜さんは紙コップを並べると、保温タイプの水筒を取り出して、注ぐ。
湯気が立っていい香りがするのだが。
「コンソメスープですか……」
湊は沈んだ声で、つぶやいてから、しまったと思う。
「嫌い?」
「嫌な思い出があって」
「どんな?」
恵が尋ねる。
「病院で飲んだときにたまたま吐血したことがあって、血と胃酸が混じった味を思い出して、それ以来おいしく飲めないんです……すみません、食事中にする話じゃないですよね」
新たに飛び出した湊の話に、恵は絶句し、理沙はまだまだ知らない辛い体験があることを知って目を潤ませている。
「いろいろ辛い経験をしてきたのね。大丈夫よ。何でも話してくれていいから」
包容力のある優しい声で、秋菜さんはそう言った。
せっかく作ってきてもらったのだから、一口も飲まないのは申し訳ないと思い、紙コップを持って鼻に近づける。
当然ながら病院食のスープとは香りは雲泥の差だ。というより今まで飲んだことがあるものよりも格段にいい香りをしている。色も澄んだ琥珀色をしていてとってもきれいだ。
湊は、これなら飲めそうな気がした。
「無理しなくてもいいのよ」
一口含む。
鶏の旨みと野菜の甘みが口の中に広がる。臭みや雑味を感じない。
「おいしいです」
言葉に加えて、とびきりの笑顔で答える。
「そうでしょう。おいしいご飯を食べると、幸せな気持ちになれるのよ。さあどんどん食べて」
その後、どの料理もおいしくて、湊はいつもの倍近い量の昼ごはんを食べていた。
満腹のせいで眠気に襲われた五時間目と六時間目の間の休み時間。
この日四人目のお客様は美野里だった。
「脚が動くようになったんだって。良かったな」
それだけ言うと、有紀の方へと向かった。
美野里は先輩らしく強い口調で有紀に話している。湊からはちょっと離れているので内容が分かるくらいには聞こえない。
有紀はしょんぼりしていて、叱られているような雰囲気にも見える。といってももともと有紀は今日一日元気がなかった。
話の合間に有紀が一瞬湊の方を見る。湊と目が合った途端、困った様子で目を伏せた。
湊は自分とのことで美野里が有紀を叱っているのではと思ったけど、確証もなしに先輩に疑ってかかるわけにもいかなかったので、そうではないことを願うだけだった。




