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湊がみんなと奏でるストーリー  作者: 輝晒 正流
第十三話 新米女子とみんなの気持ち
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新米女子とみんなの気持ち の 3

 翌日、湊は久しぶりに松葉杖で登校した。

 その姿を見た多くのクラスメイトが、脚が再び動いたことを喜んでくれる。

 湊が有紀の方に眼をやると、机に顔を伏せていた。

 車椅子のために除けてあった椅子を理沙が持ってきてくれる。

 「ありがとう」

 そこへ聡美が寄ってきた。

 「わたし、昨日の有紀のことは、やっぱり許せないんだけど」

 腰を下ろした湊に、小声でそう告げる。

 「許してあげようよ。怪我をさせようとしたわけでもないし、怪我もしてないし」

 「助けてもらったのに、あんなことして、一言もないってサイテーだと思うでしょ? 理沙」

 湊の言葉にもまだ気が収まらないようで、理沙に同意を求めようとする。

 少し睨むようにして理沙を見る湊。

 理沙も軽蔑の言葉を浴びせて逃げ出した。同じことを経験しているのだから、有紀を理解してほしい。湊はそういう思いだった。

 「サイテーだとは思うけど、きっと有紀は、混乱してるのよ。ちょっと時間が必要だと思うの」

 その言葉に、今度は笑みを理沙に送る。

 「いい。有紀を責めたら絶対にダメだからね」

 湊は聡美に念を押した。


 その日の一時間目と二時間目の間の休み時間。

 この日ひとり目のお客様は、新聞部の一谷美奈代だった。

 「今日の放課後、入試トップの三沢さんを新聞部へご招待して取材したいんだけど、空いてるかしら」

 「しばらく休んでたから、部活に出たいんですけど」

 「部室にお邪魔してよかったら、そちらでもいいわよ。何部かしら?」

 「写真部です」

 「しゃ、写真部……」

 一谷が顔を引きつらせる。

 「あの部室は新聞部は立入禁止だから。ぜひ新聞部の方へお願いしたいんですけど」

 「そ、そうなんですか」

 写真部と新聞部の間に何があったのか、湊はとても気になった。

 「でも一度、部長に聞いてみますね」

 湊はブレザーのポケットからケータイを取り出して、部長に掛ける。

 新聞部が自分の取材をしたいという話を伝えると、あっさりとOKがでた。

 「じゃあ、放課後部室で待ってます」

 一谷は信じられないという顔をしながら、帰っていった。


 二時間目と三時間目の間の休み時間。

 今日二人目のお客様は、宮田一志。入学式で新入生代表の挨拶をしたハンサムで成績優秀な男子だ。

 ドアの外から教室の中をうかがっている。

 噂になった入試トップの“三沢湊”がどんな奴なのか見に来たのだ。

 彼だって、自分より成績が上で、自分に入学式の挨拶を押し付けたやつがどんな人間かは知りたいはずだ。

 しかし、名前くらいしか知らない相手を、教室を覗くだけでは見つけることは出来ない。

 一メートルくらいの一番近いところに、その目的の人物がいるなどとは思ってないのか、視線は湊の頭上を通過している。

 湊は彼の様子から、なんとなく目的を察した。そして探している人物は自分だよという意味を込めて、湊は小さく手を振る。

 がその意図は、彼には伝わらなかった。

 同学年に中学からの友達がいない湊は身体の状態もあって、あまり教室の外へ出て、他のクラスを覗いたり、他のクラスの生徒と交流したりはしていなかった。

 だから、彼が日常的に今の湊のように女子から手を振られたり、積極的な恋のアピールを受けていることなど知らなかった。

 湊の行動は、他の女子がしているような彼に対して好意を持っているということとしてしか、彼に伝わっていなかった。

 そんな“自分に好意のある女子”に、一志は手っ取り早く尋ねることにした。

 「ねえ。面倒な入学式の挨拶を他人に押し付けた人がこのクラスにいると思うんだけど、どの子?」

 一志はちょっと皮肉を込めて言った。責めたりするつもりではなかった。

 その言葉を近くにいた湊のクラスメイト数人が聞く。

 「そんな言い方、ないと思うんだけど」

 「相手の事情も知らないで、そんなこと言うなんてひどいわ」

 聡美と理沙が非難の声を上げた。

 「見損なった」

 恵だ。

 男子も含めたそれ以外のみんなが、非難の視線を一志に向ける。

 妬まれたるすることはあっても、非難されることに慣れていない一志は、予想していなかった現状に戸惑うばかりだった。

 湊と一志を取り囲むクラスメイトたちを押しのけて、和田肇が一志の前に出てきた。

 「お前。天才か秀才かしらねぇけど、最低なヤツだな。謝れよ」

 殴りかかりそうな勢いで、怒鳴りつける。

 どう見ても体育会系でない一志は怯んでいるが、負けず嫌いなのかプライドが高いのか、非を認める様子はなく言い返そうとする素振りを見せた。

 「ごめんなさい」

 一志が次の行動に移る前に、湊がそう言った。

 そして、一志の視線が自分に向くのを待ってから頭を下げた。

 全員の視線が湊に向く。

 「なんで三沢さんが謝るんだよ」

 肇が言う。

 その言葉で、一志は話しかけた相手が目的の人物だったとようやく気が付いた。

 「面倒くさいとか、そういうつもりじゃなかったんだ」

 肇の言葉には応えず、湊は廊下側の床に寝かして置いてあった松葉杖を取り上げた。

 そして、それを支えに立ち上がる。

 「こんな身体で、休みがちだったから、急に休んで迷惑が掛からないようにしてもらったんだ。後になってでも、宮田君には説明して謝るべきだったよね。ごめんなさい」

 再び頭を下げる湊に、一志は自分の非を認めないわけにはいかなかった。“三沢湊”を見て自分の言葉に非があったことは明らかだった。

 「僕の方こそ、嫌味な言い方をしてすみませんでした」

 一志は言って頭を下げる。

 「はい、終わったから、みんな戻って」

 当事者である湊のその言葉に、不満の残る者たちも、湊のそばを離れていった。

 「で、僕に用事?」

 湊は杖を置いて座りなおすと、わだかまりがないことを笑顔で表して、尋ねた。

 「いや、その…… 顔を見たかっただけだから。じゃあこれで」

 湊の笑顔に、一志は妙な恥ずかしさを感じて、顔をそらしながらそう答えると、教室を出て行った。

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