新米女子とみんなの気持ち の 2
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その日の放課後。
湊はみんなを、前にも行ったケーキ屋に、ご馳走するからと誘った。
心配かけたり迷惑をかけたりしているので、そのお詫びだが、単純にケーキが食べたいというのもあった。
有紀も誘ったのだが、用事があるからと断られた。実際に用事があるかどうかは怪しいところだ。
ということで、理沙、恵、聡美が一緒だった。
車椅子はみんなが交代で押してくれている。
ケーキ屋に向かう道の途中、前の方を有紀が歩いているのに気付いた。
車椅子を押してくれている恵に追いつくように頼んだ。
もう一度誘ってみようと思ったからだ。
しばらくしてようやく追いついた。
「有紀。ちょっと待って」
車の通りのほとんどない道路、信号のない横断歩道の手前だ。
振り返って待ってくれる。
「秘密をみんなに黙ってくれていてありがとうね。一緒にケーキ食べに行こうよ」
「良くも悪くも、あなたとはこれ以上関りたくないの。それだけよ」
「それでもありがとう。けど、男子だと思ってくれていいから、クラスメイトってくらいは認めてよ。喧嘩したまま一年の間過ごしたくないよ」
「そうよ、いがみ合ってる雰囲気の悪いクラスって嫌よ」
聡美が言う。
「男か女か分からない子がいるクラスのほうが嫌よ。とにかく、もう声掛けないで。そしたらほっといてあげるから。じゃあ」
有紀は言い放つと、くるりと回れ右をして、車道へと踏み出そうとする。
「あぶない!」
叫ぶより早く、湊は車椅子から立ち上がり、夢中で背後から有紀に飛びついた。
しっかりと抱きつき、有紀の前進を止める。
有紀と話をしている間に、湊の視界の端に入っていた車が、直後に、有紀のすぐ前を走り抜ける。
強い風圧を受けて、有紀の髪とスカートが大きく揺らめいた。
もう一歩踏み出していたら、接触していたかもしれない。
その距離のところを、明らかにスピード違反の車が止まらず走り去っていったのだ。
有紀の危険に気付きながらも助けに飛び出せなかったみんなが胸を撫で下ろす。
呆然としている有紀。死んでいたかもという恐怖がループして、そのほかの思考をしばらく停止させた。
湊も自分のしたことに驚いて呆然とする。そして、有紀に抱きついたまま、十秒近くの時間が流れる。
「大丈夫?」
固まる二人に、理沙が声を掛ける。
「は、は離して!」
理沙の声に我を取り戻した有紀は顔を真っ赤にして、湊を振り払う。
振り払われ支えを失った湊は、バランスを保てずに、歩道上にしりもちをついた。
そんな湊を見て、有紀は何かを言いかけるが、何も言えずに、今度は左右を確認して横断歩道を渡る。
「有紀! 今のは酷いんじゃないの!」
聡美が有紀に向かって叫ぶ。
しかし振り向かずに、有紀は走り去った。
「大丈夫?」
理沙が湊に手を伸ばすが、湊はその手を取らずに、笑顔を見せる。
「足が動いた。今足が動いたよ」
湊は言ってから、地面に倒れこんだまま、確認のために足を動かす。
「動くよ」
もう一度言った。
「ホント! 動いてる」
「よかった」
理沙と聡美も喜ぶ。
「でもどうして、急に動いたの?」
理沙が疑問を口にする。
有紀が振り返って歩き始めた瞬間、走ってくる車にぶつかると思って、足が動かないことも忘れて飛びついた。
精神的な理由で動かなくなった足だから、それを越える動かしたい気持ちが動かしたんだと湊は思った。
「有紀に……友達に僕みたいな事故には遭って欲しくなかったから。だから必死で飛びついたら動いたんだ」
湊の真剣な言葉に、なぜか恵はニヤニヤする。
「湊ぉ。見えてるよ。白いのが」
その言葉に理沙と聡美は気付くが、湊は何のことだか分からずにいた。
「湊。スカート押さえて」
お尻を付いたまま膝の曲げ伸ばしをした後、膝を立てたままにしていたから、正面からは丸見えになっていたのだ。
状況を理解し、顔を真っ赤にして、スカートを押さえる湊。
「パンツ見られて恥ずかしがるところは、ホントの女の子みたいよね」
「男だって、女の子にパンツ見られたら恥ずかしいよ」
恵の言葉に湊は言い返した。
「じゃあ、男子に見られるのは平気なのね」
聡美が尋ねると、湊はますます顔を赤くした。
「そんなのもっと恥ずかしいに決まってるじゃないか」
そう言った湊は、からかわれたのだと気付く。
「もう、早く手を貸してよ」
湊は理沙と聡美に手を伸ばした。




