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湊がみんなと奏でるストーリー  作者: 輝晒 正流
第十二話 新米女子はキモイかこわいか
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新米女子はキモイかこわいか の 3

 翌日木曜日の四時間目は体育で、湊はいつものように見学だった。

 みんなが着替え終わるのを待って、理沙に車椅子を押してもらい、教室に帰ってくると、そこには三年の春日美野里がいた。お弁当を持参している。

 「よう! 湊。一緒に食べよう!」

 「美野里さん。どうして?」

 「友達とご飯一緒に食べるのに理由がいるの?」

 湊が車椅子を使っている分、余っている椅子を持ってきて、美野里は湊の向かいに座った。

 「もし美咲さんに頼まれてしていることだったら、今日だけでいいですから」

 まだ教室に戻っていない生徒もいる騒がしい中で湊は尋ねた。

 「面倒見てやって欲しいとは頼まれたけど、お弁当を一緒に食べたいと思ったのはわたしだから、気にしないで」

 「そうなんですか」

 声を潜めて会話している二人のところへ、理沙と恵がやってくる。

 「お友達?」

 「さんね……」

 『三年生の』と言いかけた湊の言葉をさえぎり、美野里は自己紹介をする。

 「わたしは湊の友達の春日美野里。よろしくね」

 「桐谷恵です」

 「木村理沙です」

 名札を外している小柄な美野里を上級生だとは二人とも思っていないようだった。

 理沙と恵は机ひとつでは狭いので隣の席を引っ張り寄せて座る。

 「湊は、それだけ?」

 一番大きなお弁当を食べている美野里が、湊の食べている焦がしチーズパンを指して言う。

 「入院している間に、胃が小さくなって」

 「けど、バランスも必要でしょ。野菜食べて」

 美野里は、自分のお弁当から、お箸でサラダを摘むと湊へ差し出した。

 それは、まさしく「あーん」というシチュエーションだ。しかもお箸は美野里さんのもので間接キスだ。

 湊は奏ともしたことがないこの行為に、どうしようかと躊躇う。

 自分が男だったと知らない美野里にそんなことをして、後で怒られないだろうかと心配になった。

 「遠慮しないで」

 笑顔で勧める美野里に、断るほうが失礼な気がする。

 そう思い湊はお箸にできるだけ触れないように、サラダを口に入れた。

 それをタイミングよく見てしまったのは、遅れて戻ってきた有紀だった。

 「春日先輩! 湊と何してるんですか!」

 有紀が驚きの声を発してから、湊を睨む。

 茶話会で美野里が女子陸上競技部と言っていたことを思い出す。有紀もそうだ。

 「原野もこのクラス? 一緒に食べよう」

 「先輩なの!? 失礼しました」

 「どうして教えてくれなかったの」

 今度は理沙と恵が湊を睨む。

 「湊を責めないで。気を使わせたら悪いから、わたしが止めたの」

 「そんなことより、湊と何してたんですか!?」

 有紀は湊を男だと考えているから、恋人同士でもない二人でさっきのようなことをするのはいけないことだと思うのは当然だ。

 「友達を餌付けしてるんだよ」

 冗談めかして言う。

 「先輩は湊の秘密を知ってるんですか?」

 この席以外には聞こえないくらいに声を潜めて有紀が言う。

 怒っているとはいえ、秘密をばらさずにいてくれて、湊はうれしかった。

 「知ってるよ」

 美野里も声を潜めて言う。

 「えっ!」

 思わず驚きの声を上げてしまう湊。

 美咲が断りもなく他人に話すなんて思えない。

 美野里が湊や理沙、恵の顔を順番に見て、この席の人間が秘密を共有していることを確認する。

 「すごいよね。身体がこんなで大変なのに、二位に十点以上差をつけての入試トップだなんて」

 思わぬところから秘密が明かされてしまった。

 「「「えーーーっ!」」」

 理沙と恵と有紀の絶叫が見事にハモった。

 クラス中の視線が集中して、何事かと詮索する。

 理沙がクラスのみんなへ向かって、騒いでゴメンと謝る。

 恵の手が湊の頭へと伸びる。

 「許して、叩かないで」

 湊は頭を抱えて伏せる。

 「ご利益ありそう」

 恵は湊の頭を撫でると、その手を自分の頭へ持っていく。

 「何で叩くと思うのよ」

 湊のおかしな行動に、理沙が尋ねる。

 「だって入学式で挨拶した人が二位の人と分かったときに、一位の人は入学の資格ないとか、頭叩いてやるとか言ってたじゃないか」

 「そういえば言ったかな」

 「そんなことで、湊を叩くわけないじゃない。だいたい、秘密になんかしなくても……」

 「だって、叩いてやるなんて言われたら、言えないじゃないか」

 「ということは、叩くって言ってなかったら、秘密じゃなかったのね」

 恵がニヤリと笑う。

 「そうだけど、自慢したりするのは、いやだから、自分からは言わなかったかも」

 「今のは私が漏らしたことは内緒な。阪元先生に何されるかわからないから」

 「聞いちゃったし、秘密にすることじゃないって思ってるんなら、話しちゃおうかな。先輩から聞きましたって。聡美ィ」

 恵が聡美を手招きする。

 「ちょっと、だめだって」

 美野里が阪元先生に怒られないようにするには自分で言えと、恵は言いたいのだ。

 控えめな性格の湊は、自慢になるようなことなんかしたくなかった。

 うじうじしている湊を見て有紀は、「つきあってらんない」と自分の席へ戻る。

 「まだ食べてるんだけど何?」

 「湊から重大発表。どぞ」

 恵が湊に振る。

 「その……あの……入試トップは僕でした」

 「ふーん……えーっ!! 湊が!」

 そして、みんなの知るところとなった。

いつもお読みいただきましてありがとうございます

多忙な状況は改善されてませんので、次の掲載もお時間をいただきます

これからもよろしくお願いいたします

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