新米女子と繋がる心 の 4
昼休みにトイレに行けなかったので、湊は五時間目と六時間目の間の休み時間に慌ててトイレに向かった。
できれば、話があるといっていた理沙に付き合うべきだったのだろうが、そういう余裕がなくなっていたので仕方がない。
放課後、茶話会に行く前に、理沙とのことを済まさなければならないと思い、湊は理沙へ目配せをする。
教室にはまだたくさんの生徒が残っている。
場所を変えるために、湊は先に車椅子を進めて教室を出た。
「三沢さん」
渡り廊下の人が少なくなったあたりで、湊の元へ近寄ってきて、理沙が呼びかける。そして、湊の正面へと回り込む。
名字で呼びかけたということは、やっぱり嫌われたのだと湊は感じた。
二人の様子を心配してついてきた聡美が少し離れたところから見ていて、これから起こるかもしれない事態に戦々恐々としている。
友達ではなくなった人を呼び捨てにしては、かえって反感を買うかもしれない。そう思って湊も名字で呼び返す。
「木村さん。この前の話……」
まずは秘密にしていてくれたことのお礼を言おうとした湊の言葉を、理沙の言葉が遮る。
「この前はごめんなさい。動揺したせいであんな酷いこと言ってしまって。許してください」
言うと、理沙は深々と頭を下げた。
また酷いことを言われるんだと思っていた湊は、いきなり謝られて面食らった。
「許すも何も、僕は怒ってないよ」
「でも、三日も休むから謝りに行ったら、面会謝絶になってて、わたしのせいで具合悪くしちゃったんでしょ。ホントにごめんなさい」
「あれは妹が勝手に掛けただけだよ」
「それに、この前もさっきだって、『木村さん』って言うから、わたしのこと嫌いになったんでしょ」
「それは、理沙が僕のことを嫌いになったと思ったから、呼び捨てにできないと思って。それに理沙だってさっき僕を名字で呼んだ」
「私のほうが嫌われたと思ったから」
「なによあなたたち。誤解で避け合ってたってわけ?」
聡美が二人の間に割って入ってくる。
「握手して仲直りしなさい」
聡美は湊の方に向かって理沙の背中を押した。
しかし、理沙は握手はせず、湊に抱きついた。
「ゴメンね。湊。これからも女の子同士の友達でいてね」
「もちろんだよ」
安心した湊はようやく肩の力が抜けた気がした。
「じゃあ、その話わたしにも聞かせてもうらおうかしら」
「ごめん。美咲さんに呼ばれてて。もう行かなくちゃいけないんだ」
言って慌てるように湊は車椅子を動かし始めた。
「焦らすわね」
車椅子を進める湊を、聡美は苦笑いをして見送った。
茶話会はすでに始まっていた。
湊は室内を見回す。
ただお茶を飲んで話をする。やっぱり、それだけのことのようだ。
似たようなクラブがあったなと思っていると、給仕をしているのは喫茶部の人たちだった。主催が生徒会執行部、運営が喫茶部ということらしい。
四十人近い生徒がいてほとんどが女子だ。六つのテーブルに分かれていて、それぞれに生徒会役員らがいて、他の生徒の相手をしている。
湊が部屋の中を見回していると、美咲がそれに気付いた。
席を立ち、湊に近づいていく。
「来ていただいてうれしいわ。お席へご案内するわね」
そう言うと、車椅子を押してくれる。
部屋が少しざわつき、多くの視線が二人へと向けられた。
湊が案内された席は、美咲の隣だった。
「遅れてきた一年生が、こんな上座になんてダメですよ」
「わたしがお招きしたお客様ですから、ここに座っていただかなければ困ります」
そう言われては、従うしかない。
「一年の三沢湊です。御覧の通り身体で、周りのみんなには迷惑をかける存在ですがよろしくお願いします」
そう言っている間に、湊のところに紅茶が運ばれる。
続けて同席の紹介を受けた。
湊の左から順に田村優佳、春日美野里、青木志保、西林希世子、大滝秋菜。全員三年生だ。
「みなさん、わたしの親友です。困ったことがあれば、遠慮せずに相談してくださいね」
今日自分がここに誘われたことは、そういうことだったんだと理解した。
既に湊が男だったことを知ってるのかは分からないが、秘密をみんなに話したときに味方になってくれる存在がいるのだということを伝えるために、美咲は自分を招待したのだと湊は確信した。
「ありがとうございます。とても心強いです」
感謝の気持ちを、湊は笑顔と共に伝えた。
気が付くと140ポイントになっていました。
ご評価&ブックマークしていただいた皆様、ありがとうございます。
ところで第十話は長くなってしまったので、分割するかもしれません
そうするとサブタイトルを考え直さなくては・・・
6/13修正 旧十話の4の途中で分割しました。新十一話の3からが新掲載になります




