新米女子と繋がる心 の 2
次の休憩時間からは、湊の周りには話しかける人の姿があった。
「ごめんなさい」
二時間目の休憩時間にそう声を掛けてきたのは、尚美だった。
「なにが?」
「お姉さまと呼ばせてくださいと言っておいて、お姉さまの辛いときに何も出来なくて」
「そんなこと…… しかたないでしょ。どうしていいかわからなくてみんなが困ってたのは、わかってるから。そんなことで怒ったりなんかしないよ」
「お姉さまは、やっぱりお姉さまですぅ」
「できればその呼び方はやめてね」
千穂や尚美、道雄が声を掛けたことによって、その後も入れ代わり立ち代り、声を掛けてくれる人が多かった。
むしろこの機会を使って距離を近づけようとしている男子もいるようだった。
昼休み。
いつも一緒に食べていた者は、湊のそばにいない。
他のみんなもいつものメンバーで食べているので、湊と一緒に食べようとするものはいない。
湊は弁当を取り出すと机の上に置いた。高校に入って初めて母親が作ってくれた弁当だ。
家を出るのが早い湊は、遠慮して普段は駅の売店でパンを買っているのだが、落ち込む湊を心配して、病院に来る前に頑張って作ってくれたものだ。
かわいい柄の巾着から弁当箱を取り出して、湊は慌てる。
その弁当箱は明美が小学校の時の遠足とかで使っていたもので、小さな女の子向けらしい絵柄が、とてつもなく恥ずかしかった。
しかしその恥ずかしさを、独りという状況が助けてくれた。
誰にも見られないうちに、ふたをひっくり返して絵柄を隠す。
少しの間一人で食べていると、いつもは別のグループで食べている聡美が、湊のところに移ってきた。
「この前のこと以外に、理沙たちと何かあったの?」
小声で尋ねる。
「有紀と恵はないよ」
「ていうことは理沙とはあったのね。こんなときに……」
聡美が頭を抱える。
「この前お見舞いに来てくれたとき、近いうちに話すって言ったこと、それを話しただけだよ」
「相当聞きたくない話らしいわね」
聡美の半分程の弁当を湊はほぼ同時に食べ終えると、二人は弁当箱を片付けた。聡美が笑いを堪えていたことに湊が気付かないままに。
「困ったら相談してね」
聡美はそう言ってから、席を離れた。
それを待っていたかのように、理沙が声をかけてきた。
「三沢さん。お話が……」
「……」
理沙の方から話しかけられると思っていなかった湊は、驚いてすぐに言葉が出なかった。
全身が強張るのを感じた。
湊の心を不安が駆け巡る。この前の続きをここでまた罵られるのだろうかと。
理沙が「三沢さん」と呼びかけたこと、そしてそのときの湊が身体を強張らせたことに、聡美は困惑した。
「ここじゃちょっと。二人だけで」
「はい、そうですね」
他人行儀な返事をして理沙は車椅子を押して、廊下へ出る。
丁度そこへ、例の二年の二人がやってきた。高木良美と伊藤由佳。自称花園美咲親衛隊の二人だ。
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。
「三沢くーん。ちょっと付き合ってくれるかな」
「一緒に、お姉さまのところへ行きましょう」
「今からちょっと用事が」
言っても二人は全く取り合う様子はない。
とうてい逃げることはできない。抵抗しても無駄だと思って湊は大人しくすることにした。
二人は理沙から、湊が乗った車椅子を奪うと楽しいことが待ちきれないように足早にその場を離れた。




