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湊がみんなと奏でるストーリー  作者: 輝晒 正流
第十一話 新米女子と繋がる心
49/73

新米女子と繋がる心 の 1

2017年11月24日 第11話のシーンの追加並びに大幅な加筆修正しました。途中の区切りが変わっていますのでご注意ください

 ゴールデンウィークが終わり、みんながだるい様子で登校している頃、湊はまだ病室にいた。

 結局脚はまだ動かない。

 この日は病院から登校するつもりでいたのだが、いつもと勝手が違うので、もたもたしているうちに絶対に間に合わない時間になっていた。

 母親が必要な荷物を家から持ってきてくれて、登校の準備を手伝っていた。

 ようやく準備が整い、車椅子に乗って病室を出る。

 病院から学校までは、高塚院長の好意で、病院の送迎用の車に乗せてもらう。

 母親は湊を見送ると、退院の手続きをする。続きの治療は、通院ですることになっていた。

 学校が近づくにつれ、湊の緊張が高まる。

 三日休んだせいで、顔を合わせづらい状況を作ってしまっていた。

 もしかすると、聡美が来た後に理沙が湊のことを話しているかもしれない。そんな不安もあった。

 しかし、嫌われようが疎まれようが、行くしかないという覚悟はしていた。

 学校に到着して、校門前で降ろしてもらう。

 授業が始まり静まり返った中を昇降口へと向かう。

 教室に到着してノックをしてから入る。

 湊の姿に一瞬教室全体がざわめく。

 「遅れてすみません」

 「もう大丈夫なのか?」

 先生は言葉だけを掛けた。

 隣の席の翔が席を立ち、車椅子が入るように、机をずらして、椅子を除けてくれる。

 その後翔が席について授業が再開された。


 一時間目が終わると、クラスには微妙な空気が漂っていた。

 クラス全体に自分が男だったとばれているという雰囲気はない。湊はそう感じて少し安心した。

 事実、精神的な発作を起こした湊にどう接していいのかわからないと、みんながそう思っていた。

 もし湊の周りにいつものメンバーのうちひとりでもいれば、励ましの言葉も掛けやすかったのかもしれない。

 親しくしていたものが声を掛けられないのに、うわべだけの励ましで傷つけてしまうに違いないと誰もが考えていた。

 そのいつものメンバーである理沙はふさぎ込んでいて、恵と有紀は明らかに湊を避けている。

 聡美は時々気遣いの声を掛けるが、提出物を集めたりと、委員長の仕事のため湊のそばにいることはほとんどなかった。

 恵と有紀の様子が、湊には理解できなかった。

 理沙が自分を避けるのは秘密を知ったからと分かるが、恵と有紀の様子がおかしいのは理沙から聞いたからなのだろうか。

 それならば他にも聞いている人がいるかもしれない。

 それで自分を避けている人に声を掛けたら、その場でヘンタイの謗りを受けるかもしれない。

 湊は疑心暗鬼になって誰にも声を掛けられないでいた。

 理沙と話をしなければと思う湊だったが、そんな勇気は全くでなかった。


 その重い雰囲気を変えるきっかけとなったのは、道雄の言葉だった。

 「あ、あの…… 元気出してください。いや違う。落ち込まないでください。でもない。ぼ、僕にできることはありますか?」

 目の前に立ち、恥ずかしがりながらも一所懸命に言う姿に、湊は安心し、笑みを浮かべた。

 「じゃあ。僕を嫌わないでね」

 それは今だけでなく、将来的な意味も含めての言葉だった。

 道雄は力強く頷いた。

 そのタイミングで、見かねて声を掛けようとした千穂が割り込んだ。

 「あんた、今度は三沢さんに告白するつもり?」

 その言葉に道雄は顔を引きつらせる。

 「それはこの前されたよ」

 「まさか受けたんじゃないでしょうね」

 「受けてないよ……って、辰見さんにも告白してたの」

 「どうやら、クラス中の女子に声掛けまくってるみたいよ。あっち行ってなさい。この女たらし」

 千穂は道雄を追い払う。

 追い払われた道雄は、湊の笑みが見られただけで満足した様子だった。

 「ごめんなさい。先に謝っておくわ」

 千穂は真顔になって言った。

 「どうして?」

 「今は独りにしてほしい?」

 千穂は答えずに尋ねる。

 「ううん。独りはなんか怖い」

 「前にも言ったけど、こんな時は、自分から勇気を出して話さないとみんなも話しづらいのよ」

 「そうだろうね」

 疑心暗鬼になっていたことを知らない千穂の言葉に、湊はそう応えた。ただ心配してくれて声を掛けてくれたことは嬉しかったし、お陰で自分から会話をする勇気が多少は湧いてきた。

 千穂は湊の表情が多少明るくなったことに満足した。

 「ところで、さっきの奴の告白を受けなかったってことは、既に意中の人がいるのかしら?」

 千穂は声を潜めて尋ねる。

 「今はいないよ」

 「そうなの? 原野さんは美少女でいつも一緒だから、恋人同士なのかと思ってた」

 「ただの友達だって」

 そう応えた湊は、重たい気分から抜け出せた安心感から、既に千穂の罠に掛かっていたことに気付いていなかった。

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