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湊がみんなと奏でるストーリー  作者: 輝晒 正流
第十話 新米女子の秘密と動揺する心
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新米女子の秘密と動揺する心 の 3

 翌日は平日で、当然学校はあったのだが、湊は休んでいた。

 まだ入院をしているし、足が動かないためだ。

 加えて、男だったことが理沙にバレ、それがクラスに広まっているであろうことが恐かった。

 その日は午前中のリハビリのほかは治療と呼べるものはなく、処方された薬を飲むだけだった。

 ただ寝ているだけで夕方になった。

 コンコンと開いているドアをノックする音がした。

 湊が返事をしないでいると、もう一度ノックがあり、様子をうかがうようにそうっと入ってくる影が見えた。

 水城聡美だ。

 「起こしちゃった?」

 「起きてた」

 湊は聡美の表情を探る。少し不安そうな顔は、接し方に戸惑っているようにも見える。理沙から聞いているのかどうかは分からなかった。

 「具合が悪いようだったら帰るけど、お話いいかしら」

 少なくとも男だったことを非難しにきた様子ではなく、湊は少し安心した。

 「うん」

 と、聡美の問いかけには短く答えて、湊の方から尋ねる。

 「もう僕のことは、みんなに広まってる?」

 自分が男だったことを、理沙はきっと話していると思って尋ねた。

 「話さないわけにはいかないことだから。でも、だいたいみんな理解してくれてるわよ」

 やっぱりバラされたんだ。理解はしてくれても、そのことを隠していた自分とはきっともう誰も友達になってくれない。

 「そんなわけないよ。ヘンな奴って、影でこっそり笑ってるんだよ」

 「そんな卑屈にならないで。みんな会いたがってるんだから」

 だったら一緒にお見舞いに来てくれたらいいのに、と思う。

 「会いたがってるなんてうそだ。理沙が、理解してるなんてことないよ。恵も有紀もそうじゃないの」

 「恵と理沙は落ち込んでいるようで、今日はあまり話してくれなくて……。近くにいたからショックが大きいのかもしれないけど。お見舞いに誘ったのに、行かないって。有紀は用事があるからって」

 湊は自分が避けられてると感じた。もう独りぼっちなんだと。

 聡美が来たのも、ただの委員長の仕事だと決め付けていた。

 「それが普通の反応だと思うよ。聡美は平気なの」

 「わたしだってショックよ。程度の差はあるでしょうけど、だれだって接し方に戸惑うわ。言葉足らずで、傷つけてしまったらどうしようって。恐怖に怯えるあんな様子を見たんだもの。理沙や恵だってそうよ。でもまた楽しくお話できるようになるから」

 「へっ!?」

 男だったことがバレたことの話だと思っていた湊は、拍子抜けしたような声を発した。

 話の内容を勘違いして、勝手に悲観していたことが恥ずかしく感じられた。

 そして、少し安心することができた。理沙は黙っていてくれたのだ。

 理沙はまだ自分のことを友達と思ってくれているのかもしれない。そう思えた。

 そもそも、いつかはみんなに話そうと思っていたことだ。突然それが訪れたせいで、動揺していたことを湊は反省した。

 まずは理沙と話をしなければ。それから聡美やクラスのみんなにも話さなければ。そう思った。

 湊の顔から暗いものが消えた。

 「どうしたの?」

 「今日の僕はどうかしてた。ごめん。できるだけ早く学校に行くよ」

 「そ、そう。それはうれしいわ」

 突然の変わりように、聡美は呆気に取られている。

 「それから、話さなければならないことがあるんだ。今はまだ心の整理がついてないから言えないけど、近いうちに話そうと決めたから、そのときは応援してね」

 「悲しい話じゃないでしょうね」

 改まった言葉に、別れ話とでも思ったのだろうか。少し不安の表情を見せる。

 「それはないよ。あまりいい話とは言えないけど」

 「分かったわ。応援してあげる」

 聡美は真顔で答えてから、笑顔を見せた。


 聡美が来た翌日から学校に行くつもりをしていた湊だったが、治療の方針が決まったということで、ゴールデンウィーク中は学校を休み治療を優先することにした。

 なにより早く歩けるようになりたかったからだ。ただその心理的な治療をすれば必ず元のように脚が動くようになるというわけではないとも言われたが、今はそれにすがるしかなかった。

 ただ、ひとつの希望として、直後には全くなかった脚の感覚が、今朝にはほとんど戻っていた。

 一回の治療に一時間半ほどのまとまった時間が必要ということも学校を休む理由のひとつだ。その治療を午前、午後と受ける。通院でもかまわないと先生には言われていたのだが、通っていては時間が足りないので、無理を言って入院扱いにしてもらっていた。

 リハビリも続けている。ただ、今は自分では動かせないために、始めの頃のように動かしてもらったりマッサージをしてもらうだけになったが。

 そうしてゴールデンウィークの前半は過ぎていった。

 「お姉ちゃん、持ってきたよ」

 湊は重要なことを思い出し、明美に持ってきてもらうように頼んだのだ。

 ドサッと机に置かれたのは、宿題のプリントの束だ。他に必要な教科書やノートもある。

 「すごい量だよね」

 「きっと先生は、宿題を出しているのは、自分の教科だけと思ってるんだよ」

 せっかくのゴールデンウィークなのに、どこかに遊びに行っていたら、とても間に合うような量じゃないというのが二人の感想だ。

 しかもあと三連休を残すだけなのに、全くの手付かずだ。

 「間に合うの? あと三日だよ」

 「間に合わせるの」

 早速プリントを手に取る湊。

 「勉強の邪魔したら悪いから今日は帰るね」

 年下の明美に勉強で手伝えることはない。それを明美は自分でも分かっていたから帰ることにした。

 帰り際に面会謝絶の札を掛けていったのを湊は知らなかった。

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