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湊がみんなと奏でるストーリー  作者: 輝晒 正流
第九話 新米女子と死の記憶
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第九話のおまけ

 高塚の病院。いつもの病棟のナースセンター。

 手のすいている看護師たちが集まっている。

 この年も新人の配属があり、その紹介が行われていた。

 「今日からこちらに配属になりました。鈴木です。よろしくお願いします」

 若い彼女は元気よく挨拶をした。


 ある日。

 「鈴木さん今日ははじめての夜勤よね。がんばってね」

 看護師長の言葉に、鈴木は少し不安な表情で尋ねる。

 「幽霊とかは出ないですよね。ここ」

 「わたしは、見たことないけど。怖いの?」

 少しあきれ気味に看護師長が言う。

 「あ、当り前じゃないですか」

 「じゃあ、他の人たちには、聞かないほうがいいわよ」

 「えっ……」

 鈴木はひきつる表情で絶句した。


 またある日。

 「543号室はお手入れしても使わないのはなぜですか? やっぱり『カウントダウンみたいで嫌』って言われたからですか? それとも、『ゴー黄泉の国』だからですか? まさか幽霊が出る部屋じゃないですよね」

 鈴木は冗談めかして尋ねてみる。相手は先輩の澤井だ。

 「幽霊だなんて…… 『院長先生の娘さん』のためよ? 時々来られるから」

 「ふーん。お身体弱いんですね」

 と答えつつも、幽霊のことをはっきりとさせなかった澤井の言葉が気になった。


 またまたある日。

 「院長先生の娘さんてどんな方ですか?」

 鈴木が看護師長に尋ねる。

 「お嬢さん? 元気な子だったわよ。時々病院にも遊びに来てたし。遅くにできた一人娘だったから、院長先生はたいそうなかわいがりようだったわ。でもお可哀想に……」

 「へ?」

 『時々来る』のに、『お可哀想に』とはどういうことなのかと疑問に思ったが、鈴木はその続きを尋ねるのが怖くて出来なかった。

 543号室が院長の娘の幽霊が時々来る部屋だと、はっきりと言われたくなかったからだ。


 再び夜勤の日。

 「ふわぁ。眠いです」

 鈴木が出勤してきたのは就寝時刻もとうに過ぎた時刻なのに、ナースセンターは慌しかった。

 ピンポーンとナースコールが鳴る。

 「申し送りもまだで悪いけど、今夜は忙しくてみんな今ちょっと手が離せないの。お願いできるかしら」

 澤井が鈴木に言う。

 「はい。543号室ですね…… 543号室ですか!?」

 元気に返事をしたが、その後はだんだんと弱々しくなっていく。

 「『院長先生の娘さん』ね。行ってきて」

 澤井はそう言うと、内線電話を掛ける。別の患者の容態の変化で宿直医に連絡をするところだ。

 ナースセンターを出て、うす暗い廊下を歩く鈴木。

 「お嬢さんは亡くなったはずじゃぁ…… 怖くない、怖くないから、わたし。がんばるのよ」

 つぶやきながら歩く。そして、543号室にたどり着く。

 今日の日中までは開いていたところに、『三沢湊』の名札が入っていた。

 「院長先生の娘さんじゃないじゃないの」

 つぶやいてから、病室に入る。

 「どうされましたか?」

 「脚が痛いような気がするんです。どうなってますか?」

 「『気がする』んですか?」

 湊の言葉に、へんな言い方をするなぁと思いながらも、ベッドに近づいて、患者を確認する。

 女の子が不安な表情を自分に向けているのを見た。

 それから足元の方へ近づき、布団をめくる鈴木。

 そこにあるはずの脚がなかった。

 「ぅきゃぁぁぁ!!!」

 深夜の病棟に、響き渡る鈴木の悲鳴。


 騒ぎが収まり、静寂が訪れた病棟で、鈴木はお説教を受けていた。

 「まったく。びっくりしても深夜にあんな大声出す人がありますか?」

 「反省してます。つった脚が正座してるみたいに曲がってるなんて思ってもなかったですから。だけど、『院長先生の娘さん』なんて言うからですよ。亡くなったはずの人がいて、脚が見えなかったら、誰だってびっくりするじゃないですか」

 「あはは。ついいつもの調子で言っちゃって…… でも半分は『院長先生の娘さん』なんだから」

 澤井の言葉に、鈴木は疑問符を浮かべていた。

お待たせした上にこんな話ですみません


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