新米女子と死の記憶 の 4
事故の回想シーンがあるので苦手な方はご注意ください
ケーキ屋からの帰り道、湊を送るために駅までの道を一緒に歩いている。
「ごめんね。しんみりさせちゃって」
信号待ちをしながら、言葉を交わす。
「いつか話せる日が来たら話して。慰めてあげるから」
理沙が元気づけようと笑顔を湊に向ける。
「うん、いつか話すよ。ありがとう」
力強く返事はしたものの、未だ笑顔は作れなかった。
そして信号が青に変わり、四人は渡り始めた。
「ゴールデンウィークは何をしようかな」
「まずは宿題だよね。あんなに出されるとは思ってもいなかったよ」
恵の言葉に、湊は提案した。
「そうよね。ぱぱっと終わらせて、服でも買いに行きたいわね」
先頭を歩く聡美が言う。
横断歩道を渡る四人に、右手から自動車が減速しながら近付く。
赤に変わった信号で停車するところだ。
ふと、湊はそちらへ視線を向けてしまった。
停止線でゆっくりと黄色い車が止まる。
黄色い車が、まっすぐに湊へ向いている。
湊の足が止まる。
全身が硬直するのを感じた。
あの日のことがフラッシュバックする。
鼓動が限界まで跳ね上がる。
黄色い車が自分を向いて目の前に存在する。
浩太郎の身体を押しつぶし、奏を死なせた黄色い車が、今湊の前に存在している黄色い車に重なった。
「わあぁあああ!」
湊は叫び声を上げ、頭を抱えてうずくまる。
死の恐怖が、胸を締め上げるかのような苦しみを与える。
手を繋いでいた奏がもう笑顔を見せてくれなくなったあの瞬間のイメージが、湊の視界を支配する。
そのむごたらしい奏の姿から目を逸らそうにも、瞼の内側に映る映像を消すことはできなかった。
「奏……奏……」
瞳の奥に映る奏に呼びかける。
そんな異常な湊の様子に慌てて三人が駆寄る。
「どうしたの!?」
尋ねる言葉に湊は反応しない。
その湊を聡美が抱き起こす。
焦点の合わない湊が、恐怖の表情を浮かべ、身体を震わせている。
「救急車」
気付いて、恵がケータイを取り出す。
「それより、阪元先生よ。学校へ電話して」
ケーキ屋でのこともあって事故に関連していると思った聡美が指示する。
「だったら、わたしが」
代わって理沙がケータイを取り出す。保険委員の理沙は、緊急時用に阪元のケータイ番号を聞いていた。
電話をかけるのを理沙に任せて、聡美は恵に指示する。
「ここは危ないわ。湊を歩道まで運ぶわよ」
横断歩道の途中から、二人で湊を歩道まで運ぶ。
「すぐ来てくれるって」
理沙が阪元との電話を報告する。
「奏……」
嗚咽と共につぶやく湊の両目からは溢れるように涙が流れている。
「しっかりして。湊」
理沙は湊を強く抱きしめて、叫んだ。
重いシーンが始まりました。
逃げずに読んでくださいね。




