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湊がみんなと奏でるストーリー  作者: 輝晒 正流
第一話 新米女子は新しい生活をスタートする
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新米女子は新しい生活をスタートする の 3

 入学式での校長の話は、長くて聞いているだけでみんなダルそうにしている。湊も同じだ。

 そのあと新入生代表の宣誓と挨拶で、宮田一志という男子が名前を呼ばれ、壇上へと登り挨拶する。

 「これって、トップ入学の人がやるんだよね」

 「カッコよくて、成績優秀。あー、憧れちゃうなー」

 周囲からそんな女子の会話が聞こえる。

 整った顔立ちで、女子に好かれるのが分かる。

 『やっぱりこういうのは似合う人がやらなきゃだね。僕があそこに立っていたら、なんて思われただろう』

 湊は心の中でつぶやく。

 次に上級生代表の歓迎の挨拶があり、入学式の式次は終わった。

 「話聞くだけなら、校内放送で充分だよな」

 誰かが言った言葉に、湊は頷いた。

 その後は再び教室へ戻る。

 今度はおんぶをされないように、回り道をしてエレベーターを使った。


 ホームルームでは自己紹介となった。

 湊の順番が回ってくる。

 「三沢湊です。中学三年生の夏休みに事故に遭い、半年ほど寝たきりだったので、もう一度中学三年をやってました。だから皆さんよりひとつ年上です。でも、年上だとは思っていただかなくて構いませんので……」

 その言葉に、和やかだったクラスが静まり返った。

 「あの、そんなに暗くならないで。僕もリハビリがんばって、年内には普通に歩けるようになりますから……」

 「あ! ボクっ娘」

 先に自己紹介した辰見千穂だ。

 事故の話で、沈痛な様子だったクラスに笑いが起こる。

 「どうぞよろしくお願いします」

 そう締めくくったが、調子が狂ったせいもあって、肝心なことを湊は言いそびれてしまった。

 学校医の阪元先生に言われた『みんなに知っておいてもらわなければいけないこと』とは、一言で言えば、いたわってくださいということになる。杖をついているからということだけでなく、風邪引きにさえ気をつけなければならない。風邪をうつされたら困るから必ずマスクしてねなんて、初対面の人に厚かましくお願いするにはプライドのようなものも邪魔をしていた。

 全員の自己紹介が終わった後、先生から学校生活の注意事項をしばらく聞いて、そしてプリントを大量にもらって終了だった。


 終礼のすぐ後、辰見千穂が湊のところへ駆け寄ってくる。

 「ゴメンね。自己紹介の途中で声出しちゃって」

 「別に気にしてないから」

 「中学の同級生にもボクっ娘がいて、ちょっと気になっちゃって。じゃあ仲良くしてね」

 「うん」

 それだけ言葉を交わすと、千穂はすぐに別のグループへと合流した。

 入れ替わりに、理沙が湊のところへと近寄ってくる。

 「三沢さんは、この後はどうするの? 友好を深めにどっか行く?」

 「ゴメン。リハビリがあって病院にいかないといけないんだ」

 「そうなんだ。残念。お迎えが来るの? それとも電車? バス?」

 「電車で」

 「じゃあ駅まで一緒に行くよ。みんなで」

 理沙の後ろには桐谷恵と原野有紀がいた。

 今朝教室に飛び込んできて、理沙にぶつかった少しクセのあるセミロングの髪型で赤い縁のメガネの女子が桐谷恵で、ショートカットでスタイルも良い美少女が原野有紀だ。

 みんな違う中学出身で、今日初めて出会ったらしい。そんな彼女たちだが、朝の出来事がきっかけで、すぐに仲良くなったのだ。

 「ありがとう」

 今日会ったばかりなのに、付き添ってもらえることは、とてもうれしかった。

 駅までの道のりを湊に合わせて、みんなはゆっくりと歩いた。

 道すがら、湊以外は女子トークに花を咲かせる。

 好きな食べ物とか、好きな男性アイドルはとか、好きな人はいるのかとか。

 「男子に背負ってもらってドキドキした?」

 という問いには「別に」と答えて驚かれたりした。

 会話の内容はそんな他愛もない質問ばかりだが、湊は戸惑いながら応えていた。

 なぜなら湊は、女子たちの会話に女子として参加するのは今日が初めてのことだったのだから。


 ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲



 三沢浩太郎のクラスメイトの高塚奏が白血病と診断されたとき、彼らはまだ中学一年だった。

 二人は親しい仲ではなかったが、クラスメイトだったので、浩太郎にも先生やクラスの女子からある程度病状は伝わってきていた。

 薬での治療があまり効いていなくて、骨髄移植が必要だということらしかった。

 白血球の血液型が問題で、あまり多くない型だから適合する人はなかなか見つからないと聞いた。

 世の中にはそういう病気があり、そういう人たちの為に自分たちにもできることがあるのだと、浩太郎はその時知った。

 そして浩太郎は両親に相談し、ドナー登録をしたのだ。(筆者注:現行法では中学生はドナー登録できません)


 浩太郎が中学二年の六月になってまもなくの頃のある日。家に帰ると、真剣な表情の母に出迎えられた。

 骨髄提供の依頼があったというのだ。

 夜。父が帰ってくるのを待って兄も交えて話をした。妹は近くで聞いていた。

 絶対安全なことではないと知っていること。

 人のためになりたいと思ってドナー登録したこと。

 なにより、クラスにも同じく骨髄提供を待つ人がいること。

 浩太郎の両親は理解して、心配しながらも承諾した。兄も反対はしなかった。


 病院での健康診断の結果、浩太郎からの提供が正式に決まった。

 学校を休まないといけないので、浩太郎が職員室に報告に行くと、担任の先生は不思議そうな表情を浮かべた。

 「どうしたんですか?」

 「いや、今日のホームルームで伝えようとしたんだが…… 高塚さんのドナーが見つかって移植手術が決まったそうなんだが。偶然かな」

 提供する側にもされる側にも、互いの情報は伝えられることはない。だから浩太郎は提供する相手がどんな人かは知らない。

 でも浩太郎は間違いないと感じた。



過去シーンに 入りまーす

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