新米女子は撮影される の 5
週が明けて月曜日の朝、湊は貰ったカメラを持って、部室に向かった。
部室にはセキュリティロッカーがあるので、そこへカメラを保管しに行くのだ。
基本的に朝の部活の集まりはない。
しかし、その日に限って、三年の藤原有紗と二年の佐藤博と渡辺孝太郎、それに一年の立花友香がいた。
「お早うございます」
「あら、今日は朝からどうしたの?」
有紗が振り返って尋ねる。
彼女の隣では、博がパソコンの操作をしている。
「カメラを置きに来たんです」
湊は言って、カバンの中からカメラを取り出した。
「おおっ! それってメチャ高いカメラじゃないか!」
博がカメラを指差して、驚きの声を発する。
「兄の中古を貰ったんです」
「ちょっと見せてくれよ」
「ええ。どうぞ」
博は湊の返事を聞くや否や、餌を待たされていた犬のように、カメラに飛びつき奪うようにして受け取った。
「湊、おっはよー! 渡辺先輩が朝練するって言うだよ。文化部なのに」
と言う友香の声は楽しそうだ。
「ちょうどいい。三沢を撮ってみろ」
孝太郎が友香に指示をする。
「はーい」
友香が湊の前に回りこんで、小型のカメラを構える。
「脇を締めろ。構図を決めたら、シャッター半押し。フォーカスしたらシャッターを押し込む」
カシャッと音がする。
カメラを持ち直して、友香が撮影された写真を確認している。
しかし、その顔は不思議なものを見たような、悩んでいる表情をしている。
「変なものが撮れた」
友香がカメラを孝太郎に見せる。
「ストロボの光が何かに反射したんだろ」
孝太郎はそう言ったものの、自分の言葉に納得していないように、首を傾げる。
湊もその写真を見せてもらう。
湊の背後で、まるでストロボが光ったような輝きが写っている。
しかし、友香のカメラはストロボが光っていなかったから、それの反射っていうことはありえない。
だから、
「外から一瞬差し込んだ光が反射したんじゃないですか?」
という考えにたどり着いて、湊が答えた。
「それか、故障かだな……」
孝太郎はどの可能性にも納得がいっていないような表情だ。
しかしその論議は、突然のことに打ち切られた。
「うおおおお!」
博の雄叫びだ。
「わあぁ!」
続いて有紗も歓声を上げる。
何事かと、他の三人も二人のところへと移動をする。
そこで湊が見たものは、
「わっ! なんで、それ消したはずなのにぃ!」
湊が叫ぶ。
カメラとコードでつながれたパソコンには、湊のコスプレ画像が表示されていた。
「データ復活したらこんなのが見つかって……」
博が言い訳をする。
「佐藤先輩、それって酷いです。プライバシーの侵害です。セクハラです」
友香が責める。
「確かに酷いな」
孝太郎も責める。
「でも、湊にこんな趣味があったなんて」
有紗は楽しそうに言う。
「違いますよ! カメラをくれる代わりにコスプレして写真撮らせて欲しいって、兄さんに頼まれたんだ。断じて趣味じゃないよ」
湊が必死に訴える。
「酷いお兄さんです。でも、魔法少女の湊はとってもかわいいです」
「うれしくないよ。とにかくそれ消してください」
友香の慰めのつもりの言葉も拒絶して、湊はその恥ずかしい写真の抹消を要求した。
「もったいないなぁ」
その博の言葉に、湊は手にしている松葉杖を振り上げた。
「消してくれないなら……」
「早まらないで」
有紗が止める。
「静まれ、静まれ」
孝太郎も制止をする。
「やっちゃえ湊」
友香だけは悪乗りをする。
「わかった。消すから。ちょっと待って」
博は慌てて、パソコンを操作して、画像の表示を消して、さらにデータ復元ソフトの機能を使って、復元できないように完全消去を実行した。
「これでもう絶対に見れないから」
博は湊が杖を下ろしたのを見て、額の汗を拭った。
「ふふふ。湊って常に落ち着いてるコかなって思ってたけど、そんな取り乱すこともあるのね」
有紗が笑いながら言う。
「当然ですよ。そんな恥ずかしい写真見られたら。絶対に人に話さないでくださいよ!」
「努力するよ」
友香が、冗談半分で言う。
「もし話したら、絶対口利いてあげないから」
「湊の怒る顔がかわいいからちょっとからかっただけよ。言わないって」
「僕は一応年上なんだけど……」
かわいいと言われたことが気に入らなくて湊は拗ねるようにそう言った。
お待たせしました
余り安らがなかったので、サブタイトルを「安らぐ時」から「楽しい時」に変更しました。
ほかにいいのを思いついたらまた変えるかもしれません。