新米女子は撮影される の 3
しばらく部屋の外で待つ裕一郎。
「出来たよ」
部屋から小さな声が聞こえたので、中に入る。
衣装を着けた湊がベッドに腰掛けている。
裕一郎は中に入り戸を閉めると、充電していたカメラを手に取った。
「これでいいのかなぁ」
コスプレ経験もなく、初めて着るコスチュームに戸惑い恥ずかしがりながら尋ねる。
ミニスカートのチアリーダーのような衣装に、丈の短いジャケットと、スカートの下はスパッツだ。ロングブーツも履いている。しかも日常生活では着ることがなさそうな、ツヤツヤでカラフルな色合いだ。
「いいねぇ。いいよ。湊ちゃん」
人が変わったように言いながら、シャッターを押し続ける裕一郎。
「ちょっと、やめてよ」
顔を隠しながら、引き気味に言う湊。
「恥ずかしがるところが、かわいいねぇ。決めポーズいってみようか」
「知らないよぉ」
明美が見ているアニメを横で少しだけ見たことはあったが、そんなところまでは知らなかった。
「右手にステッキを持って、Mの字を描くように振りながら、『みーんな、みんな、ハッピーになあれ』だ」
裕一郎が実際にやってみせる。
可愛らしいポーズは男がやると、気持ち悪かった。
湊はため息をついてから、裕一郎のようにしてみせる。
「みーんな、みんな、はっぴーになーれ」
左手で顔を隠しながら、アイテムのステッキを振る。
恥ずかしさと面倒くささで、声は小さく抑揚もない。
パシャパシャと連続でシャッターを切る音が響く。
「だいたい写真撮るだけだったら、セリフなんていらないじゃないか」
自分のやらされたことの無意味さに気付いて、湊は文句を言う。
「大丈夫。動画できっちり脳に焼き付けた」
「もういいでしょ」
「おう。堪能した」
満面の笑顔で応える裕一郎。
「そもそも、顔は変わってないんだから、弟に女装させるようなものでしょ。気持ち悪くないの?」
湊は不満を質問の形でぶつける。
「全然。もう女の子にしか見えない」
きっぱりと言い切る裕一郎。
女装してるようには見えないということは、既に女子として生活している湊にとってはうれしいことだが、男としての意識がそれを素直に受け入れることを許さなくて、ついこう言ってしまう。
「嘘ばっかり」
「そんなことはない」
裕一郎は言ってから、カメラのメモリーカードを取り出す。それを仕舞うと、新品のカードを入れる。
「このメモリーもやるから、確認したら消せばいい」
渋々、湊は顔を隠さずに撮影される。
「ほら」
撮影したばかりの画像を表示して見せる。
「やっぱり昔っからの僕の顔じゃないか」
事故に遭う前と比べて少しふっくらとした顔つきになってはいる。
少しずつ変わっていく自分の顔を毎日見ているため、湊はその写真を見ても、以前と同じ童顔な男子である自分の顔と認識していた。
「そりゃ、お前の顔だからな。こっちも見てみろ」
ケータイを取り出して、写真を表示する。裕一郎の就職の記念に、三年くらい前に一緒に撮った写真だ。
中学二年で今に比べて子供っぽい顔だが、明らかに男の子の顔をしている。
その写真と比べると、今撮った写真に写るのはどちらかと言えば女の子の顔だ。
しかし、湊はそのことを精神的にはまだ納得したくない気持ちだった。