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湊がみんなと奏でるストーリー  作者: 輝晒 正流
第八話 新米女子は撮影される
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新米女子は撮影される の 3

 しばらく部屋の外で待つ裕一郎。

 「出来たよ」

 部屋から小さな声が聞こえたので、中に入る。

 衣装を着けた湊がベッドに腰掛けている。

 裕一郎は中に入り戸を閉めると、充電していたカメラを手に取った。

 「これでいいのかなぁ」

 コスプレ経験もなく、初めて着るコスチュームに戸惑い恥ずかしがりながら尋ねる。

 ミニスカートのチアリーダーのような衣装に、丈の短いジャケットと、スカートの下はスパッツだ。ロングブーツも履いている。しかも日常生活では着ることがなさそうな、ツヤツヤでカラフルな色合いだ。

 「いいねぇ。いいよ。湊ちゃん」

 人が変わったように言いながら、シャッターを押し続ける裕一郎。

 「ちょっと、やめてよ」

 顔を隠しながら、引き気味に言う湊。

 「恥ずかしがるところが、かわいいねぇ。決めポーズいってみようか」

 「知らないよぉ」

 明美が見ているアニメを横で少しだけ見たことはあったが、そんなところまでは知らなかった。

 「右手にステッキを持って、Mの字を描くように振りながら、『みーんな、みんな、ハッピーになあれ』だ」

 裕一郎が実際にやってみせる。

 可愛らしいポーズは男がやると、気持ち悪かった。

 湊はため息をついてから、裕一郎のようにしてみせる。

 「みーんな、みんな、はっぴーになーれ」

 左手で顔を隠しながら、アイテムのステッキを振る。

 恥ずかしさと面倒くささで、声は小さく抑揚もない。

 パシャパシャと連続でシャッターを切る音が響く。

 「だいたい写真撮るだけだったら、セリフなんていらないじゃないか」

 自分のやらされたことの無意味さに気付いて、湊は文句を言う。

 「大丈夫。動画できっちり脳に焼き付けた」

 「もういいでしょ」

 「おう。堪能した」

 満面の笑顔で応える裕一郎。

 「そもそも、顔は変わってないんだから、弟に女装させるようなものでしょ。気持ち悪くないの?」

 湊は不満を質問の形でぶつける。

 「全然。もう女の子にしか見えない」

 きっぱりと言い切る裕一郎。

 女装してるようには見えないということは、既に女子として生活している湊にとってはうれしいことだが、男としての意識がそれを素直に受け入れることを許さなくて、ついこう言ってしまう。

 「嘘ばっかり」

 「そんなことはない」

 裕一郎は言ってから、カメラのメモリーカードを取り出す。それを仕舞うと、新品のカードを入れる。

 「このメモリーもやるから、確認したら消せばいい」

 渋々、湊は顔を隠さずに撮影される。

 「ほら」

 撮影したばかりの画像を表示して見せる。

 「やっぱり昔っからの僕の顔じゃないか」

 事故に遭う前と比べて少しふっくらとした顔つきになってはいる。

 少しずつ変わっていく自分の顔を毎日見ているため、湊はその写真を見ても、以前と同じ童顔な男子である自分の顔と認識していた。

 「そりゃ、お前の顔だからな。こっちも見てみろ」

 ケータイを取り出して、写真を表示する。裕一郎の就職の記念に、三年くらい前に一緒に撮った写真だ。

 中学二年で今に比べて子供っぽい顔だが、明らかに男の子の顔をしている。

 その写真と比べると、今撮った写真に写るのはどちらかと言えば女の子の顔だ。

 しかし、湊はそのことを精神的にはまだ納得したくない気持ちだった。

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