新米女子は撮影される の 1
▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲
一月末になって、面会謝絶が緩められて、まずは浩太郎の両親の実家にのみ伝えられた。
最初に訪ねてきたのは、浩太郎の母方の祖父母だった。
飛行機を使って片道合計約五時間掛かるところを見舞いに来た。
祖母はよほど心配だったのか、浩太郎の姿を見るなり、泣き出してしまうほどだった。
その後気持ちが落ち着くと、今度はたがが外れたように話し出した。
何度も聞いた話を聞かされ続けていると、浩太郎は疲れを感じ始めた。
それに気付いた祖父が、予定を繰り上げて帰ることにした。
翌日再び見舞いに来たが、帰りの飛行機の時間もあったようで、病室にいたのは三十分足らずだった。
その翌日、今度は父方三沢の祖父母が、いとこたち三人を引き連れてやってきた。
いとこたちは曾祖母に見せるために、ビデオカメラを持ってきていて、撮影を始めた。
「心配かけてごめんなさい。もうここまで元気になったから安心してください。もっと快復して退院したら、遊びに行きます。それまで元気でいてくださいね」
ベッドの上に上体だけを起こして、浩太郎はカメラに向かってしゃべった。
「なんか堅いなぁ。普段どおりしゃべれない?」
「だって、カメラ慣れしてないから」
「でも良かった」
カメラを置くと彼女は言った。
「チューブやコードがいっぱい繋がった様子撮影してたら、ひいばあちゃんびっくりして死んじゃうかもしれないから。本当に良かった。最初は絶対に助からないって聞いてたから、こんなに快復してるって、思わなかったよ」
「足も少しずつ動くようになって感覚もだいぶ戻ってきたから、歩けるようにはなるだろうって」
浩太郎の言葉のニュアンスに気付いて、一瞬暗い表情をしたが、すぐに笑顔を作る。
「そう、良かった。また家に遊びに来てね。川で泳いだり釣したりしようよ」
「うん。絶対行くから」
それがまだ遠い先のことだと思いながらも、浩太郎は答えていた。
見舞いに来た親戚の誰も、浩太郎の下半身が移植されたことを話題にしなかった。気遣って話題にしなかったのか、知らなかったからなのか、浩太郎には分からなかった。もちろん自分から話すことなど出来なかった。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
風呂上りにくつろいでいると、裕一郎が帰省してきた。
玄関で出迎えた明美は兄をバイ菌扱いして、マスクをしろだとか、まず手を洗えと怒鳴っている。湊は妹の度が過ぎた衛生管理の被害にあっている裕一郎を不憫に思った。
裕一郎は母に帰ることは伝えていたのだが、いつ帰るとは伝えていなかったらしく、急な食事の準備で母が怒っていた。
正月以来会ってなかった兄を、湊はリビングで迎える。
「お帰り、久しぶりだね」
「浩太郎。元気にしてたか?」
皺の寄ったスーツ姿の裕一郎が笑いながら声を掛ける。
「もうその呼び方はやめてよ」
「湊だったな。慣れなくてな」
と言葉を交わしていると、明美が兄の背中を蹴飛ばす。
「先に手洗いとうがいしろ。それからへんな荷物届いてるよ。変態兄ぃ」
「おっ届いてたか。どれどれ」
明美のことなんか全く意に介してる様子はない。
「だから先に手洗いしろぉ!」
・・・
その後も裕一郎は明美から怒鳴られ続ける。
「洗いものぐらい手伝ってよ!」
とか、
「お客さんじゃないんだから、布団は自分で敷いてよね」
とか、
「さっさと風呂入れ!」
とか散々な扱いだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
よろしければ、感想や評価をいただけると励みになりますので、よろしくお願いいたします。
誤字脱字のご指摘も歓迎です。
これからもよろしくお願いします。