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湊がみんなと奏でるストーリー  作者: 輝晒 正流
第七話 新米女子も女子のうち
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新米女子も女子のうち の 5

2017年11月7日 加筆しました

 その日の夜のまだ早い時間。

 湊はまだ一人での入浴は難しいので、母や妹が風呂場の出入りに手を貸している。

 この日は明美が手を貸していた。

 「いつもありがとう」

 「気にしないで、お姉ちゃん」

 湊をバスマットに座らせると、明美は一度浴室から出る。以前は湯船の出入りも手伝ってもらっていたが、今はもう浴室の出入りだけ手を貸してもらえれば、あとはひとりでなんとかなっていた。

 身体にお湯をかけ、タオルで石鹸を泡立てる。

 身体を洗い始めたとき、いつもなら呼ぶまでは入ってこない明美が、この日はすぐにまた入ってきた。

 「うわぁ! なんだよ明美」

 湊は叫んで窓の側に顔を向ける。なぜなら、明美は裸にタオル一枚だったからだ。

 「今日からできるだけ一緒に入るって決めたの」

 「急にそんなこと言われても困るよ」

 「一緒に入ってもいいって聞いたら絶対断るでしょ。お姉ちゃんはこれから体育の着替えとか、男の子の時にはなかった、女の子同士の見たり見られたりすることがあるでしょ。そうなったときに、おかしな行動とらないように練習しなきゃ」

 明美は湊の手からタオルを奪うと、背中をやさしく洗い始めた。

 背中が終わると脇から腕を洗う。

 さすがに前は、自分でも簡単に洗えるし、任せられないところもあるから湊は自分で洗う。

 お湯をかけてもらい、湊は少し手を借りて湯船に浸かった。

 その後、明美は自分で身体を洗い、洗い終えると湯船に入ってきた。狭いけど何とか入ることができる。

 向かい合わせだ。

 目のやり場がなくて、湊は九十度首を横に向ける。

 「小学校の四年生くらいかな」

 「何が?」

 わざと明るく言った明美の言葉の意味が分からず、湊は尋ねる。

 「お姉ちゃんの胸の感じ。わたしの四年生の頃と同じくらいかなって」

 皮下脂肪だけとはいえない膨らみに加え、少しずつ大きくなってきた乳首とその周りの濃い色の部分。

 「分かってるよ。男の胸じゃないことくらい」

 自嘲気味に湊がつぶやく。

 「言ったでしょ。もう女の子なんだから、胸が大きくなるのを喜んでよ」

 「まだそんな気持ちになれない」

 横を向いたまま言った湊の顔に、明美は水面を指ではじきお湯を掛けた。

 湊はそれに反応しなくて、しばらく静かな時間が流れた。

 その静寂を破ったのは明美だった。

 「傷だらけだね」

 湊のウエストの高い位置で身体を一周する縫い傷のほかにもたくさんの手術の跡がある。

 緊急手術の時は優先度が低く後に回された手術や、うまくできなかった部分の再手術で、湊の胴体は手術痕だらけだ。でこぼこの縫い目が縦横に重なっている。

 明美は手を伸ばし、その傷に触れる。

 「くすぐったいよ」

 湊の言葉に、明美は「ぐすん」と鼻をすする。

 泣いている? それを確かめるために、明美の方を見るかどうか、湊は葛藤する。

 「お姉ちゃんは、どうしてこんなに辛い思いをしないといけないの?」

 そんな質問に答えがないことは、恐らく明美も分かってるだろう。

 「そんなこと分からないよ。でも、事故にあったことは辛いと思ってるけど、今のこの生活はみんながいろいろと助けてくれるから感謝しているし、楽しいこともたくさんあるよ。だからそんなこと言わないで」

 「こっちを向いて言ってくれないと、説得力ないな」

 明美の言葉に、湊は彼女の方を向く。ただし、顔を手で覆っている。

 「女の子になるって言い出したのはお姉ちゃんでしょ。いい加減に、覚悟を決めなさい!」

 明美は湊の手を引き剥がす。

 それを言われると返す言葉がない。

 「じゃあ、ホントに見るよ。ホントのホントに」

 湊は瞑っていた目を開ける。

 恥ずかしそうに顔を赤らめる明美が、潤んだ目でまっすぐ自分を見ているのがまず目に入る。

 目を少し下に向けると、水中の二つの膨らみが屈折でゆらゆらとしているのが見える。

 そして少しくびれた先に、男とは違う股間が揺らいで見えた。

 鼓動が限界まで早くなるのが分かる。

 しかし、男だったときにエッチな本を見たときのような興奮を感じることはなかった。

 女の子の裸を見ているという恥ずかしさと、そんな自分を見られているという恥ずかしさ。それはきっと男だったときと同じだと感じていた。しかし、男だったときの興奮がないことに、湊は少し驚き安心した。

 「大丈夫でしょ」

 明美が言う。

 自分が興奮しないことを明美が予想していたのかと、湊は不思議に思った。

 「ネコだって去勢すれば、発情しないっていうもの」

 「……ネコと一緒にするなぁ!」

 湊は恥ずかしさを誤魔化すために、大声を出さざるを得なかった。

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