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湊がみんなと奏でるストーリー  作者: 輝晒 正流
第七話 新米女子も女子のうち
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新米女子も女子のうち の 3

 その日の三時間目の授業中、湊は他の生徒が誰もいない教室で、担任で数学教師の池川先生と二人きりだった。

 他の生徒はみんな身体測定に行っている。

 湊が行かなくていい理由は、杖をついているために移動に時間が掛かるという建前で、朝一番に既に測ってもらったからだ。

 他の生徒に丸見えになるような測定方法ではないとしても、万が一に備えなければならない。

 女子だけになると、羽目をはずす者が出てくることも考えられる。

 ふざけて胸や身体を触ったり、或いはさらに過激なこともするのはよくあることだ。

 逆に、湊が他の女子の裸を見てしまうということもあるだろう。そして湊が男だったと知れたとき、見られたことを非難する者がいるだろう。

 湊がそういうトラブルに巻き込まれてしまうことは避ける必要があると、阪元先生が考えてのことだった。

 ということで、みんなが測定を終えて帰ってくるまで、湊と池川先生の二人きりだ。

 池川は教師暦三年目の若い男性だ。とびきりハンサムではないが、生徒たちには親しまれてる方といえる。

 「先生は大変だね。初めての担任で僕みたいなのを受け持って。お荷物になってるでしょ」

 自習の手を止めて、湊が話しかける。

 池川も当然、湊が男だったことを知っている。

 「まあな。重たい荷物なのは間違いないな」

 今後の授業のために目を通していた教科書を置いて、答える。

 「迷惑かけてごめんなさい」

 「迷惑とは思ってないさ。それも教師の仕事だからな。例えるならバーベルみたいなものかな」

 「何ですか? それ」

 「僕の教師の力を鍛えるバーベルっていうこと。ただ、担任という仕事だけでいっぱいいっぱいで、正直なところ、特別三沢のことを考えている余裕があまりないんだ。むしろ頼りない教師で、申し訳ないって思ってるよ」

 「ほんとに正直ですね」

 湊はそう言って笑う。

 「けど、見たところ女子たちとも仲良くやってるみたいじゃないか」

 「今のところは、そうですけど。ほんとのことを話したらどうなるのかなって、いつも思ってます」

 「どうなるんだろうな。こればかりはその時が来るまで分からんな」

 そこで会話は途切れた。

 その後少しして、廊下に足音が響き始めた。

 身体測定を終えて生徒たちが帰ってきたのだ。

 クラス順に戻ってきて、まもなく湊のクラスも男子が戻ってきた。

 「おかえりー」

 湊は男子たちに声を掛ける。

 「女子が戻るまで、質問を受けるぞ」

 池川先生が声を掛ける。

 「はい! 三沢さんと二人で何してたんですか?」

 笑いが起きる。

 「ただの世間話だって」

 湊が答える。

 「はい! 三沢さんの得意な教科は?」

 「数学」

 おーという低音の歓声が起きる。

 この時間が数学の時間で、その教師が担任なのはたまたまであり、お世辞でも気を使ったわけでもなかった。

 「はい! 三沢さんの好きな食べ物は?」

 「甘いもの……って何で僕への質問大会になってるんだよ」

 「いつも女子ばかりで集まってるから、話しかけにくくて」

 移動して他の誰かとの会話をするというのが難しい湊は、集まってくるいつものメンバーか近い席の子としか普段は話していなかった。しかし、他の子と話したくないわけでもないのだ。

 「遠慮しなくてもいいのに……」

 「逆ハーレムはうれしいですか?」

 その言葉を理解するのに二、三秒掛かった。

 自分が今女子で、この教室に女子は自分ひとりだけだということを。

 「別に……今気付いた」

 「じゃあ、二年のバスケ部の人とは、やっぱ付き合ってるんですか?」

 また男女の話かとうんざりとする。

 「あいつは、中学の同級生ってだけだよ」

 「だってよ。和田。がんばれよ」

 湊の言葉に、そういう言葉が飛んだ。

 入学式の日、和田肇に背負ってもらい階段を降りてから、女子の間では二人がきっと結びつくと話題にされていた。

 それは、湊の耳にも入り、否定し続けていた。

 「おう! って、俺じゃないだろ。なあ、翔」

 肇は、そう翔に振った。

 「もう、そんな冗談はやめてよ」

 そう言いながら、名前が出た隣の席の元木翔に、湊は何気なく目をやる。

 そこには、恥ずかしそうに湊から目をそらす男子がいた。

 先日の加賀道雄による告白ゲームのときのような嘘の気持ちは表れていない。

 隠していた想いを本人を前にばらされた初心な男子の恥ずかしさが、彼の表情には溢れていた。

 湊はそんなはずはないと思いながらも、今の翔の態度はどちらかと言うと、マジで気があると思われる態度のようにしか思えなかった。

 自分なんかが男子の恋の対象になるなんて、湊は急に恥ずかしくなる、と同時に、翔に対して申し訳なかった。

 その後帰ってきた、理沙たちに言われる。

 「どうしたの、湊?」

 「なんか、顔赤いよ」

 「別に……なんでもないよ」

 翔が近くにいるこの場所では言えないし、自分からも言いたい事ではなかった。

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