新米女子も女子のうち の 2
家族が帰り、面会の時間も終わろうとした頃、院長の高塚先生が病室へとやってきた。
「身体の具合はどうかね」
「最近はすごくよくなりました」
浩太郎は言ってから「すごく」は言いすぎだなと思った。主治医の先生から話は聞いているのだろうから、正直に言えばよかったと反省した。
「今日はだいぶ驚いただろう」
高塚先生は優しく笑いかける。
「はい。……でも、奏がしっかりと生きてくれているんだということが分かりました」
「そうだな」
「……あの。奏のお母さんは元気にされてますか?」
事故にあってから、奏が亡くなってから、浩太郎は一度も会ってない。もちろん会いにいける状態ではなかったが、それ以前のことを思えば一度くらいお見舞いに来るのが普通だ。来ないことを非難しているのではない。一人娘を亡くした気持ちは察するに余りある。浩太郎は奏の母親が心配でならなかった。
「あっ……あいつは、心を病んでしまってね。まあたいしたことはないんだが。面会謝絶と伝えて来ないようにしている。心配してくれてありがとう。それで……」
一度言葉を詰まらせた後、落ち着いた口調で続けた。
そしてさらに続けようとして、言い淀み、……涙ぐんだ。
浩太郎は黙って、待った。
高塚は上を向き、こらえた涙をハンカチで拭う。
「いやぁ、みっともない。いい大人が泣いたりして……。奏の身体を傷つけたくないと言って摘出手術はしないと決めてくれたそうだね。それを聞いてとてもうれしかったんだよ。そのお礼を言いたくて。ありがとう」
涙を溜めた目で、感謝を伝えた。
「僕がそうしたいだけで、お礼を言われるようなことではないです」
「ならば、わたしも君に感謝を尽くしたいだけだ。退院して身体が十分に快復したなら、また家に遊びに来てくれ。家内も喜ぶ」
「必ず伺います」
出て行く高塚院長を見送りながら、浩太郎は彼がまだ何かを言いたかったのではないかと感じていた。
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いつもお読みいただき誠にありがとうございます。
ところで、活動報告にも書いたのですが、時間軸が行ったり来たりしていますが、ついてきて頂けてますでしょうか?
ご意見があればよろしくお願いします。