新米女子はまだ知らない の 4
翌日の朝、湊はうれしくて学校へと早く出発したのだが、教室に着いたのは結局いつもと同じような時間になった。
「おはよう」
登校して入り口に近い自分の机に荷物を置くと、声を掛ける。
「ねぇ。ちょっと見て」
杖をついて、廊下へ出る。
親しいいつものメンバーが湊に続いて、廊下へ出てくる。
壁にもたれるようにして待って、みんなが出そろった頃を見計らって、湊は意識を集中し、杖を壁に預けた。
杖無しで立つ足が震えて、上半身も揺れている。筋力がまだ十分でないからだ。
「すごい、湊。立ててるよ」
「これで、玉入れ出場決定だね」
「まだだって」
そこから湊は、体全体を使うようにして、足を前に繰り出した。
一歩、二歩と進む。
周囲のみんなが息を飲む。
三歩、四歩。
「歩いてる。歩けてるよ、湊」
さらに、五歩、六歩というところで左のつま先が、段差もないのに床に引っかかり、つんのめった。
「わぁ」
倒れそうになる。いや、倒れる。手をつかなければ、と湊が考えたときには既に、誰かに受け止められていた。
「バカやろう。無茶するな」
健二だった。
「また怪我するところだったじゃないか」
「ゴメン」
湊は昨日のリハビリから、今くらいに歩けるようになっていて、ちょっと浮かれていたことを反省した。
「熱いね。お二人さん」
言われて湊と健二は抱き合っていることに気が付いた。
もちろん二人ともそういうつもりはなかった。ただの男友達の感覚でいた。
湊はしがみついてないと倒れそうだったし、健二は倒れそうな湊を支えていたに過ぎない。
「そんなんじゃないって。早く杖とって」
「上級生をからかうんじゃねぇ!」
健二も真っ赤になって、怒鳴った。
杖を受け取り、湊は健二から離れる。
「ところでタイミングよく、どうしたのさ」
健二が来なければ冷やかされなかったのに、とちょっと拗ねた言い方をする。
「なんだよ、こけそうになったの助けたのにそんな言い方するなよ。これ」
不満げに答えて、紙切れを差し出した。
「何?」
「制服。購買で注文しといたから。引換券。土曜日には届くって」
「いいって言ったじゃないか。そんなに綻んでないから」
「もう注文したんだから。受け取れって」
その引換券に手を伸ばす湊。
そこへ理沙が心配して声を掛ける。
「湊。制服受け取って、持って帰れるの? 結構かさばるよ」
引換券を受け取ろうとしていた手を、湊は止めた。
「わかった、届けてやるよ」
「ありがとう」
「それと、放課後、ちょっと話があるんだけど」
健二は少し声を抑え気味に言った。
ここでは出来ない話となると、どの関連の話かは絞られる。
湊は頷いて返事をした。
その日の午後の授業の最初十分は、生徒会役員選挙で潰れた。
立候補しているのは知らない人ばかりだし、選挙公約の活動方針も似たり寄ったりだ。
てっきり美咲も立候補するのだと思っていたが、していなかったことに湊は驚いた。
選びようがなかったので、各役員の最初に記載されている候補者に○をつけた。
全員の投票が終わると、投票用紙を入れた袋に封がされ、授業が始まった。
授業の途中で選挙委員を務める先生が、投票用紙を回収に来る。
結果の発表は翌日だ。
その日は、身体測定もある。
それがあると聞いたとき、上半身裸で胸囲を測ったりするのかと湊は心配したが、阪元先生が理由を付けて、湊だけを別に測定してくれると聞いて安心した。
もちろん、女子の下着姿が見られず残念などと思うことはない。
もしそんな状況になっていたら、困るのは湊の方だった。皮下脂肪がついてきたとはいえ、平らな胸はまだ男そのままなのだから。