表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
湊がみんなと奏でるストーリー  作者: 輝晒 正流
第六話 新米女子はまだ知らない
28/73

新米女子はまだ知らない の 4

 翌日の朝、湊はうれしくて学校へと早く出発したのだが、教室に着いたのは結局いつもと同じような時間になった。

 「おはよう」

 登校して入り口に近い自分の机に荷物を置くと、声を掛ける。

 「ねぇ。ちょっと見て」

 杖をついて、廊下へ出る。

 親しいいつものメンバーが湊に続いて、廊下へ出てくる。

 壁にもたれるようにして待って、みんなが出そろった頃を見計らって、湊は意識を集中し、杖を壁に預けた。

 杖無しで立つ足が震えて、上半身も揺れている。筋力がまだ十分でないからだ。

 「すごい、湊。立ててるよ」

 「これで、玉入れ出場決定だね」

 「まだだって」

 そこから湊は、体全体を使うようにして、足を前に繰り出した。

 一歩、二歩と進む。

 周囲のみんなが息を飲む。

 三歩、四歩。

 「歩いてる。歩けてるよ、湊」

 さらに、五歩、六歩というところで左のつま先が、段差もないのに床に引っかかり、つんのめった。

 「わぁ」

 倒れそうになる。いや、倒れる。手をつかなければ、と湊が考えたときには既に、誰かに受け止められていた。

 「バカやろう。無茶するな」

 健二だった。

 「また怪我するところだったじゃないか」

 「ゴメン」

 湊は昨日のリハビリから、今くらいに歩けるようになっていて、ちょっと浮かれていたことを反省した。

 「熱いね。お二人さん」

 言われて湊と健二は抱き合っていることに気が付いた。

 もちろん二人ともそういうつもりはなかった。ただの男友達の感覚でいた。

 湊はしがみついてないと倒れそうだったし、健二は倒れそうな湊を支えていたに過ぎない。

 「そんなんじゃないって。早く杖とって」

 「上級生をからかうんじゃねぇ!」

 健二も真っ赤になって、怒鳴った。

 杖を受け取り、湊は健二から離れる。

 「ところでタイミングよく、どうしたのさ」

 健二が来なければ冷やかされなかったのに、とちょっと拗ねた言い方をする。

 「なんだよ、こけそうになったの助けたのにそんな言い方するなよ。これ」

 不満げに答えて、紙切れを差し出した。

 「何?」

 「制服。購買で注文しといたから。引換券。土曜日には届くって」

 「いいって言ったじゃないか。そんなに綻んでないから」

 「もう注文したんだから。受け取れって」

 その引換券に手を伸ばす湊。

 そこへ理沙が心配して声を掛ける。

 「湊。制服受け取って、持って帰れるの? 結構かさばるよ」

 引換券を受け取ろうとしていた手を、湊は止めた。

 「わかった、届けてやるよ」

 「ありがとう」

 「それと、放課後、ちょっと話があるんだけど」

 健二は少し声を抑え気味に言った。

 ここでは出来ない話となると、どの関連の話かは絞られる。

 湊は頷いて返事をした。


 その日の午後の授業の最初十分は、生徒会役員選挙で潰れた。

 立候補しているのは知らない人ばかりだし、選挙公約の活動方針も似たり寄ったりだ。

 てっきり美咲も立候補するのだと思っていたが、していなかったことに湊は驚いた。

 選びようがなかったので、各役員の最初に記載されている候補者に○をつけた。

 全員の投票が終わると、投票用紙を入れた袋に封がされ、授業が始まった。

 授業の途中で選挙委員を務める先生が、投票用紙を回収に来る。

 結果の発表は翌日だ。

 その日は、身体測定もある。

 それがあると聞いたとき、上半身裸で胸囲を測ったりするのかと湊は心配したが、阪元先生が理由を付けて、湊だけを別に測定してくれると聞いて安心した。

 もちろん、女子の下着姿が見られず残念などと思うことはない。

 もしそんな状況になっていたら、困るのは湊の方だった。皮下脂肪がついてきたとはいえ、平らな胸はまだ男そのままなのだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ