新米女子はまだ知らない の 1
その日の体育の授業は、体育大会の団体競技の説明だった。
湊は分厚いコートを着せられて、見学している。
一年女子の競技は玉入れだ。
そんなの説明しなくても、と思ったが、小学校の玉入れとは違うということらしかった。
三メートルほどの高さにカゴがありそこに玉を入れるのは同じだ。
違うところは、号令と共に自分の陣地をスタートして、両陣の中央に置かれた玉を取り合って、自分の陣地に持ち帰り、玉を入れる。
それだけではなく敵陣に入り込んで、カゴを揺らしたり、立ちはだかって玉を入れるのを妨害したりする。
各役割の人数配分と、いかに効率よく自分の陣地に玉を持ち帰るかがポイントらしい。
それで役割分担を決めようと、玉入れの腕前を調べているのだ。
湊は見ていて、じれったさを感じていた。女子はどうしてボールを投げたりするのが下手なんだろうと。
「がんばれー!」
近づいて応援する。
入らなかった玉が、湊の足元にも転がってくる。
湊はそれを拾い上げ、カゴへと向かって投げる。
一つ目はカゴに当たるだけだが、二つ目からはきちんと入る。
「三沢さん。うまいじゃない」
体育委員の尚美がそれを見ていて、声を上げる。
「みんなよりは、ましみたいだね」
うまくないなどと謙遜すれば、嫌味になりそうだったので、そう答えた。
「そうだ。三沢さんもこれくらいだったら出ても大丈夫じゃないの?」
「たぶん」
尚美の提案に湊はそう答えた。
「でも危なくない? 押されたりもするんだよ。こけて怪我でもしたら大変よ」
近くで聞いていた理沙が心配をする。
「ずっと見学はつまらないから、出られるなら出たいな」
「先生とも相談して、考えてみるわ」
湊の言葉に、尚美は答える。
「ありがとう」
その後の主治医と相談した結果は、当日の体調がよければ構わないとのことだった。
しかし、学校の先生は難色を示し、結局杖無しで立てたならというところで落ち着いた。杖を持っていると他の人が危ないというのもあるが、無茶してまた倒れられても困るという考えが見えた。どうせ杖無しはムリだから諦めるだろうということだ。
だから湊は余計にがんばろうと思ったのだ。
昼休みの終わり頃、美咲が例の二年生の二人を連れて湊を訪ねてきた。
「湊。あなたには不快な思いをさせてしまって、ごめんなさい」
美咲がいきなり頭を下げる。
湊は驚き慌てる。美咲は何も悪くはないのだ。
「そんなことしないでください」
と言うが、続いて二人も頭を下げる。
「本当にごめんなさい。三沢さんの身体のことを良く知らないで、酷いことを言ってしまって」
そう謝ったのは、高木良美。
「怪我のせいで一年遅れだって、同い年だって知らなかったんです。ごめんなさい」
伊藤由佳もそう謝った。
「もうやめてください。怒ってなんかないですから」
湊の言葉を聞くと、美咲は二人のほうに向き直る。
「いいですか、高木さん、伊藤さん。湊の言葉に免じて、今回のことはこれ以上何も申しませんが、相手を思いやることを忘れないでください。そうすれば今回のようなことは起こさなかったはずです。よろしいですか?」
美咲は優しい口調で諭した。
「わかりました。お姉さま」
「反省してます。お姉さま」
二人の言葉に、美咲はうんざりと言う表情を見せる。
「花園先輩。僕なんかのために、ご面倒をおかけして、すみません」
「『なんか』じゃなくて、あなただからなのよ」
湊の言葉を、強い口調で訂正した。
阪元先生から頼まれているからなのだろうかと、湊は考える。今はそうとしか思えなかった。
「それから『美咲さん』と呼んでくださいって言ったでしょ」
今度はそう優しく笑いかけた。