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湊がみんなと奏でるストーリー  作者: 輝晒 正流
第六話 新米女子はまだ知らない
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新米女子はまだ知らない の 1

 その日の体育の授業は、体育大会の団体競技の説明だった。

 湊は分厚いコートを着せられて、見学している。

 一年女子の競技は玉入れだ。

 そんなの説明しなくても、と思ったが、小学校の玉入れとは違うということらしかった。

 三メートルほどの高さにカゴがありそこに玉を入れるのは同じだ。

 違うところは、号令と共に自分の陣地をスタートして、両陣の中央に置かれた玉を取り合って、自分の陣地に持ち帰り、玉を入れる。

 それだけではなく敵陣に入り込んで、カゴを揺らしたり、立ちはだかって玉を入れるのを妨害したりする。

 各役割の人数配分と、いかに効率よく自分の陣地に玉を持ち帰るかがポイントらしい。

 それで役割分担を決めようと、玉入れの腕前を調べているのだ。

 湊は見ていて、じれったさを感じていた。女子はどうしてボールを投げたりするのが下手なんだろうと。

 「がんばれー!」

 近づいて応援する。

 入らなかった玉が、湊の足元にも転がってくる。

 湊はそれを拾い上げ、カゴへと向かって投げる。

 一つ目はカゴに当たるだけだが、二つ目からはきちんと入る。

 「三沢さん。うまいじゃない」

 体育委員の尚美がそれを見ていて、声を上げる。

 「みんなよりは、ましみたいだね」

 うまくないなどと謙遜すれば、嫌味になりそうだったので、そう答えた。

 「そうだ。三沢さんもこれくらいだったら出ても大丈夫じゃないの?」

 「たぶん」

 尚美の提案に湊はそう答えた。

 「でも危なくない? 押されたりもするんだよ。こけて怪我でもしたら大変よ」

 近くで聞いていた理沙が心配をする。

 「ずっと見学はつまらないから、出られるなら出たいな」

 「先生とも相談して、考えてみるわ」

 湊の言葉に、尚美は答える。

 「ありがとう」

 その後の主治医と相談した結果は、当日の体調がよければ構わないとのことだった。

 しかし、学校の先生は難色を示し、結局杖無しで立てたならというところで落ち着いた。杖を持っていると他の人が危ないというのもあるが、無茶してまた倒れられても困るという考えが見えた。どうせ杖無しはムリだから諦めるだろうということだ。

 だから湊は余計にがんばろうと思ったのだ。


 昼休みの終わり頃、美咲が例の二年生の二人を連れて湊を訪ねてきた。

 「湊。あなたには不快な思いをさせてしまって、ごめんなさい」

 美咲がいきなり頭を下げる。

 湊は驚き慌てる。美咲は何も悪くはないのだ。

 「そんなことしないでください」

 と言うが、続いて二人も頭を下げる。

 「本当にごめんなさい。三沢さんの身体のことを良く知らないで、酷いことを言ってしまって」

 そう謝ったのは、高木良美。

 「怪我のせいで一年遅れだって、同い年だって知らなかったんです。ごめんなさい」

 伊藤由佳もそう謝った。

 「もうやめてください。怒ってなんかないですから」

 湊の言葉を聞くと、美咲は二人のほうに向き直る。

 「いいですか、高木さん、伊藤さん。湊の言葉に免じて、今回のことはこれ以上何も申しませんが、相手を思いやることを忘れないでください。そうすれば今回のようなことは起こさなかったはずです。よろしいですか?」

 美咲は優しい口調で諭した。

 「わかりました。お姉さま」

 「反省してます。お姉さま」

 二人の言葉に、美咲はうんざりと言う表情を見せる。

 「花園先輩。僕なんかのために、ご面倒をおかけして、すみません」

 「『なんか』じゃなくて、あなただからなのよ」

 湊の言葉を、強い口調で訂正した。

 阪元先生から頼まれているからなのだろうかと、湊は考える。今はそうとしか思えなかった。

 「それから『美咲さん』と呼んでくださいって言ったでしょ」

 今度はそう優しく笑いかけた。

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