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湊がみんなと奏でるストーリー  作者: 輝晒 正流
第四話 新米女子と活動するみんな
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新米女子と活動するみんな の 3

 昼休み、昼食を食べ終えた頃、上級生が教室に尋ねてきた。

 部活紹介の司会進行をした生徒会事務員の人だ。

 『あの人は確か……』と考えている湊の前で立ち止まる。

 「三年の花園美咲です。昨日のバスケ部の事故の報告を受けました。お怪我は大丈夫ですか?」

 下級生を相手に話しているのに、丁寧な言葉を使う。

 「はい。今朝も阪元先生に診てもらいましたが、擦り傷も痣も二週間くらいできれいになるって言われました」

 答えてから、上級生を相手に座ったままは失礼と思い、湊は慌てて立ち上がろうとする。

 「どうぞそのままで。本当に大事にならなくて良かったわ。ところで、三沢湊さん。もうクラブ活動はお決めになりました?」

 そう言いながら優しい笑みを浮かべる。

 「いいえ、まだ決めかねてます」

 「クラブ活動をまだ決めてらっしゃらないなら、生徒会選挙に立候補していただけませんか? 推薦させていただきます」

 「えぇっ!」

 湊と同時に、近くで聞いていた理沙や聡美たちも驚く。

 「ど、どうしてですか?」

 「わたしがあなたと一緒に仕事をしたいから、という理由ではいけませんか?」

 好意的な口調で美咲が言う。

 しかし、湊には初対面の美咲からそんなことを言われて、戸惑うばかりだった。

 生徒会委員だから、自分が男だったことを知っているのかもとまで、いろいろと思案を巡らせる。

 「こんな身体ですから、勤まるとは思いません」

 「ここはよそと違って生徒会事務員がいますから、座ったまま指示を出すということでもかまいませんよ。立候補の締め切りは明後日です。今すぐ返事を下さいとは言いませんわ。良い返事をお待ちしております」

 美咲を見送ってからも、しばらく湊はその突拍子もないことに、呆然としていた。

 「下級生いびりの一種かしら?」

 「湊。何かした?」

 聡美と理沙がつぶやく。

 「ほめられるようなことも、いじめられるようなこともした記憶はないんだけど」

 「で、立候補するの?」

 「断ると後が恐いのかな」

 どう対処していいものやらと、湊は困り果てていた。


 夕方のホームルーム。

 いつもの連絡事項に加え、体育大会の出場種目を決める。

 男女ふたりの体育委員が前に出て、進行する。

 最初に概要の説明がある。

 この学校では、紅白二チームではなく、三チームに分かれる。朱雀、青龍、白虎だ。

 過去には玄武もあったのだが、生徒数が減ったせいで、なくなったのだ。

 三年生がくじ引きでチーム分けされた後、各チームが順番に好きなクラスをとっていくという変わった方式が取られていた。

 当然運動部員や、走りが早い生徒がいるとわかっているクラスから引き抜かれ、基本情報の少ない一年のクラスは運任せでとられるらしい。

 さらにチームの最終順位によって、文化祭の場所取りの優先順位や予算配分が変わるというから、上級生からは勝てるように真面目に人選するように指示が出ている。

 特にリレーはポイントが高く順位に響くから、実際にタイムを計って選抜をすることが決められていた。

 ちなみに湊のクラスは朱雀チームに最後に選ばれた。

 どこの運動会でもありそうな競技ばかりだ。ただ湊を始め多くの生徒が、一年女子の団体競技が小学生の競技だと思っていた玉入れだということに驚いていた。

 ところで、各競技の人選は、名乗りをあげた生徒が十人程度にとどまり、会議は停滞していた。

 「女子で五十メートル走に出てくれる人いませんか?」

 三周目の質問が始まった。

 体育委員、工藤尚美が困った表情で訴えている。

 「女子百メートルは?」

 静まり返る。

 「みんな、同じやるなら進んで楽しくやりましょうよ」

 委員長の聡美も訴える。

 「ビリでもポイント入るけど、棄権なんかしたら、上級生にひどい目に合わされるぞ」

 「個人戦は必ずひとり一種目には出ていただきます」

 男女の体育委員が訴える。

 「じゃあ、僕は五十メートルで」

 停滞した状況を打開すべく、湊が手を挙げた。

 「杖をついた人を競技に出させるわけにはいかないじゃないですか。このクラスは鬼の集団かと思われます」

 「でも棄権するよりはビリでも出たほうがいいでしょ。五十メートルなら余裕で歩けますから」

 湊は思い出す。

 小学校の時、同じように出場者が決まらなかったとき、その時はまだ浩太郎だった彼は、悩みながらも、手を挙げることができなかった。そして最後の最後に手を挙げたのは、太っちょで走るのが大の苦手な子だった。当然結果は、ビリだった。浩太郎が出ていたら結果がどうだったかは関係ない。自分が逃げたことによって、自分よりも走るのが苦手な子に押しつけてしまった。そのことを後悔したのだ。

 その時からだ。浩太郎が物事に積極的に取り組むようになったのは。

 「三沢さんは見学で構いませんから……。どうか鬼でないという方は手を挙げてください」

 それからは湊の勇気に触発された者たちが、手を挙げ始めた。

 「じゃあ、あたしが五十メートルでる」

 「障害物でます」

 まもなく全出場者が決定した。

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