新米女子と活動するみんな の 2
湊の怪我を見た有紀と聡美の悲鳴で始まったその日は、いろいろと騒がしかった。
朝礼で、体育大会の種目が発表され、参加したい競技を考えておくように、体育委員からの報告があった。
休憩時間のたびに体育大会の種目の話題で盛り上がるグループもあったが、どちらかというと全体的には、めんどくさそうな雰囲気が漂っている。
五月の第三週の土曜日がその日で、春にすることによってクラスの団結を強くする目的もあるらしい。
秋なら出られたかもしれないのにと湊は少し残念に思った。
「まあ、わざわざ見に行くほどの内容じゃなかったけどね。ただ、新入生代表の挨拶をした男子、入学試験の成績は二位だったんだって」
一時間目の後の休憩に、新聞部の壁新聞が掲示されていたことを、恵はそう伝えた。
「へぇ、すごいね。整った顔だし、頭もいいならモテるだろうね」
楽しそうに言う恵とは対照的に、湊は興味がないふりをして、平坦な口調で応じた。
「そうだと思うけど、ポイントはそこじゃないでしょ」
「あれは、トップの人がするんじゃなかったの?」
有紀が訊く。
「なんでも、トップの人は都合で欠席するから、二位の自分に回ってきたって」
「入学式欠席する人なんているんだ。人生のハレ舞台の記念になるのにね」
理沙が言う。
「だいたいトップ合格者の役目なんだから、それをしないなんて、入学の資格ないよね」
「もったいないことするんじゃない! って頭はたいてやろうかしら。昨日の湊の元恋人みたいに」
恵はフリつきでそう言った。
その言葉に湊は何で蒸し返すのかと、不満顔をする。
「えっ何々!? 元恋人ってなに?」
湊の怪我の理由をそこまで聞いてなかった有紀は興味津々に尋ねる。
「あいつはただのクラスメイトだって。入院している間に連絡付かなくなって、お礼が言えなかっただけだって昨日言ったじゃないか」
拗ねた口調で言い訳をする。
「ハイハイ、そういうことにしといてあげる」
恵が理沙と顔を見合わせて、ニコニコと笑う。
湊の言葉を信じてないのは明らかだ。湊もその理由は分かっている。
中学の時は名字で呼び合っていたと言ったのに、「健二」と下の名前で呼んでしまった。普通の関係じゃなかったと言っているようなものだ。
否定をして言い訳をすればするほど、墓穴を掘りそうだったから、湊はとりあえず“そういうこと”にしておいてもらった。
「ところでいったい誰なんだろうね。トップ合格は」
理沙が尋ねると同時に、湊は杖を取って立ち上がった。
「どうしたの?」
「ちょっとお手洗いに行ってくる」
「ごめん、怒った?」
理沙が少し心配な顔をする。
「もう時間ないわよ」
「すぐ戻るから」
いつものトイレに行くなら絶対に間に合わない。けど湊が席を立ったのは、トイレに行くのが目的でなく、その場を離れたかっただけだ。
「誰がトップかは結局分からないんだって」
恵の声は、入試トップの詮索が相当楽しいのか、湊の気持ちとは裏腹に陽気なものだった。
とりあえず教室から一番近いトイレに行った湊。
女子トイレの奥まで入る勇気はまだないので、入り口近くの蛇口で汗でべたついた手を湊は洗った。
挨拶の辞退くらいであそこまで言うことはないのに。体調を崩しやすく休む可能性が高いから、急に休んでも大丈夫なようにしてもらっただけなのに。
そう思うとため息が漏れた。
「三沢さん」
「わあ!」
千穂に背後から声を掛けられた湊が驚きの声を上げる。
「どうしたの? そんなに驚いて」
「ちょっと考え事してたから」
嘘ではないが、ノゾキを誤魔化す言い訳の気分だった。心臓はバクバクと激しく脈打っていた。
「珍しいわね。ここのトイレに入るの」
湊の隣で手を洗いながら言う。
「手を洗いに来ただけだから」
「ふーん」
疑われえるような状況ではないのに、湊にはその言葉は、疚しさのためにまるで疑われているかのように感じられる
釈然としない様子で湊をなめるように見ると、先に出て行く。
追求されなかったことに安心して、二度目のため息を吐くと、千穂を追いかけてトイレを出た。
さらに次の休み時間、恵は有紀の助けを借りて各クラスを回り、犯人探しならぬ入学式の欠席者探しをして調べ上げた。
「いなかったわ」
「こっちも」
「なんだ、ガセかぁ」
恵が残念そうに言う。
「と、ところで、クラブ活動は決まったの?」
湊は話題を変えようとする。
「私は料理部」
と理沙。
「陸上競技」
と有紀。
「理沙と同じ料理部にしようかな。湊も一緒にどう?」
恵はまだ決めかねてるようだ。
期限はあさってに迫っている。
「ぎりぎりまで考える」
理沙と恵がいたら安心だが、クラブ活動で料理をしたいとは、湊は全く思わなかった。