新米女子と活動するみんな の 1
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その日のリハビリが終わり、浩太郎が病室へ戻ると両親が来ていた。
二人揃ってくるのは珍しい。昨日のことで怒られるのかと浩太郎は不安になった。がそうではなかった。
「明美を許してやって。わかってると思うけど、あなたのためにと思ってしたことだから」
「小学生だからな。まだ気がまわらないだよ」
明美をかばうことで怒るのではと、不安に感じているのが浩太郎にも分かった。
「わかってるよ。謝ってたって伝えておいて」
「ああ。じゃあまた来る。差し入れも禁止されていて、何もしてやれることがなくて、すまんな」
「ゆっくり休みなさい。今は身体を直すことだけを考えてね」
たったそれだけで帰っていったことに、浩太郎は寂しく感じた。
しかし、父親が忙しいことは知っている。この時間をとってくるのも大変だったはずだ。
浩太郎は両親にも迷惑をかけてしまったと反省した。
リハビリの疲れでいつもはすぐに眠るのに、その日はすぐには眠れなかった。
回診としては初めて、奏の父親の高塚院長が来た。
ベッドの横の椅子に座る。
「具合はどうかな?」
優しく問いかける。
「全身痛いです」
「痛いのは神経がつながって、働き始めた証拠だ」
「リハビリの先生にも言われました」
「切れた神経は早いうちに、この神経は必要なんだと教え込まないと、必要ないんだと思って消えてしまうんだ。苦しいだろうがこれは耐えるしかないんだよ」
『耐えるしかない』という言葉は、まるで自分にも言い聞かせるような感じの言葉だった。
だから、ずっと心に留まっていた思いを、浩太郎は言葉にした。
「ごめんなさい」
「何がだね」
「僕だけが生き残ってしまって」
俯きながら、浩太郎は伝えた。
「私は君が助かってとっても嬉しいよ。君は奏の恩人だ。助けることができて本当に嬉しいんだ」
「骨髄移植の時は、少し分けただけです。でも今度は、奏の身体を奪って生きている。それが許せなくて」
涙が溢れる。悲しみの涙か悔し涙かわからないものが流れた。
「それは考え違いをしているな。奏は助からなかった。それは間違いのない事実だ。君が奪ったのではないだろう。それに奏は生きている。ここに温かい血の流れる奏の身体があるじゃないか。奏がまた新たな迷惑をかけるかもしれないが、一緒に生きてやってくれないか」
高塚は自分の娘に向けていたような優しい眼差しを浩太郎に向けた。
「はい」
さっきよりも涙が溢れた。今度は間違いなくうれし涙だ。
「ところで、今日御両親が来られたよ。妹さんを怒鳴ってしまったんだってね。人間は心が弱い生き物なんだ。高熱が出たら体が動かないのと同じように、悲しい時や苦しい時は、自分の心さえもコントロールできなくなるものだ。そういうものだと思って、自分を咎めるようなことをしてはいけないよ。今度妹さんが来られたら、元のように迎えてあげなさい」
「はい」
「もし君が望むなら、御家族も面会謝絶にするがどうする?」
今、妹を元のように迎え入れなさいと言ったばかりで、面会謝絶にした方がいいのかと聞く。それはまるで心の発熱を計るかのようだった。
「大丈夫です」
浩太郎は高塚院長から目をそらさず答える。
「わかった」
笑顔で高塚院長は立ちあがった。
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