いつか書きたい物語のワンシーン
ゲームの世界に似た異世界に勇者として召喚された修也、千年以上前から存在するという魔王を倒すために旅に出て、ついに魔王の待つ城へとたどり着く。しかし勇者は旅の間に気づいていた。魔王は勇者に殺されたがっていると。だから勇者は魔王に言った。「俺はお前を殺さない」
とかいう感じの物語を考えてます
※追記
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考えました
俺の言葉が信じられないのか、認められないのか、魔王は唇をわなわなとさせると突然それまでの態度を翻し叫び始めた。
「ふざけるな!私を殺せ!私はお前に殺されるために全てを仕組んだんだ!お前にわかるか?!こんな気が狂ったような世界に突然放り込まれ!元の世界に戻る方法も見つからず!自殺することも出来ず!そのくせ生きる意味を見つけることも出来なかった絶望が!勇者ならば私を殺せるかもしれないと思いついた時私は歓喜に震えたんだ!やっと死ねる!やっと終われる!やっと世界に復讐出来ると! 」
それまでの態度は演技だろうと考えてはいたが、これ程態度が一変するとは思っていなかった。それ故言葉が出てこない修也に対して魔王―――牧野亜美―――は言葉を続ける。
「お前が私を殺さないというのならば!私がお前を殺す!死にたくなければ私を殺せ!勇者あああああ!!! 」
血が滲むような叫びと共に剣を振り上げ魔王は勇者へと切り掛かった。だが、勇者―――修也―――は動こうとしなかった。全くの無防備なため、もしこの場に第三者が居れば悲鳴を上げ、勇者が殺される未来を想像しただろう。しかし、そうはならなかった。亜美の剣は修也の首の横にあったが……亜美は剣を寸止めしたのだ。
勇者が切ろうと思えばすぐにでも魔王を切ることが出来る距離であり……魔王が勇者を殺そうと思えば一瞬の内に殺せる状態であり……互いの息遣いさえ聞こえる距離であるにも関わらず修也は動こうともしない。
悔しさからか、もどかしさからか亜美は今にも泣きだしそうになりな顔をして俺に向かって叫ぶ。
「何故だ!何故動かない!何故私を殺してくれない!お前は勇者だろう?!私は見ていたぞ!お前が周囲の人間を助けている所を!勇者として称賛されることを喜んでいた所を!頼まれれば嫌と言えないお人好しな所も、人を助けるのが嫌じゃないことも知っている!お願いだ!私を殺してくれ!助けてくれ!もう生きたくないんだ!お願いだから助けてよおおお!!! 」
そしてとうとう亜美は剣をその手から落とし、その場に崩れて泣き叫び始めた。何故修也が彼女を殺さないのか、何故戦おうとしないのか、その理由を言葉にするならば……。
亜美の痛々しい姿を見ていられず、修也はその場で屈むと亜美を抱き寄せた。予想はしていなかったのだろうが、抵抗することも身じろぎすることもせず亜美は修也に懇願する。
「お願い勇者……ううん、修也、私を、殺して」
「断る。俺は絶対にお前を殺さない」
「なんで、どうして私を殺してくれないの?
どうして私だけは救ってくれないの?
私、そんなに嫌われるような事……しちゃったかもしれないけど、そこまで嫌うのは何でなの? 」
「違う、俺はお前の事を嫌ってなんかいない。俺はお前を助けたいんだ」
「じゃあ私を……」
殺して、と言おうとする亜美の唇を修也の唇が塞ぐ。流石に予想外にも程があったのか亜美は大きく目を見開き「んー!んー! 」と何かを言いながら修也から離れようとするが、修也は亜美を抱きしめて離さなかった。やがて抵抗することは出来ないと思ったのか亜美は力を抜いた。
どれ程の時間が経ったか亜美にはわからなかったが、修也がゆっくりと唇を離したため一体どういうつもりなんだと抗議しようとするがそれよりも早く修也は口を開いた。
「魔王、いや亜美、俺はお前が好きだ。一目ぼれだ。お前と一緒に生きたい」
なんという理不尽な、それでいて真っ直ぐな言葉だろうか。亜美が魔王として死ぬために用意した計画は修也のそんな思い一つでぶち壊しになったのだ。
「無理だよ……。私は元の世界に戻りたい。それが出来ないならせめてこんな世界からいなくなりたい。どっちも出来ないなんて……そんなの嫌だ」
「俺が連れて行ってやる」
そんなの無理だ、と亜美は思う。実際、自分は様々な方法を試したのだ。魔法、この世界の法則を利用した科学、魔物、悪魔、色々な物を千年もの間一人で研究し、元の世界に戻ることは不可能だと結論付けた。故に言葉が出てこなかったが、続く修也の言葉に衝撃を受けることとなる。
「神を殺す」
「へ? 」
なんと間抜けな声が出たことだろうか。こんな言葉を発するのは久しぶりだなあ、と頭の隅で思っていると更に修也は言葉を続ける。
「殺すことが出来なければ脅す。脅して俺たちを元の世界に連れて行かせる。」
「いや、でも、神がこの世界に居るって保証は無いよ? 」
「絶対にいる。いや、絶対に出現する」
「ど、どういうこと? 」
「この世界はゲームに似た世界だ。ゲームじゃ勇者が魔王を倒すのが定番だが……、勇者が魔王と協力して黒幕を倒すのも割とあったりする」
「でも、そいつが元の世界に戻してくれるって保証は……」
「大丈夫だ」
なんで……――――――
「そいつを見つけるまで俺たちは長い旅を続けることになるだろう。色々な困難に立ち向かうことになるだろう。長い時間が必要になるだろう。その間に亜美を惚れさせてみせる。俺が亜美を幸せにしてみせる。俺がお前の生きる場所になってみせる。お前が死ねないなら俺も死ななくなってみせる。黒幕がいなかったとしても俺がハッピーエンドを作ってみせる。だから、大丈夫だ」
――――――頭が真っ白になる。胸が熱くなる。もしかしたら、この瞬間既に自分は彼に……。
「本当に……、ハッピーエンドを作ってくれるの? 」
「ああ」
「私が惚れなかったら……。その時は私を殺してくれる? 」
「そんな終わりはあり得ないが、約束してやる。ついでに俺も一緒に死んでやるから安心しろ」
「本当に……本当に……」
涙で、思いで、前が、見えなくなる、言葉が出なくなる、でもこれだけは言葉にする。
「お願い、私を……連れて行ってください」
その言葉に修也は……。
「ああ」
力強く答えた。
――――――こうして、勇者と魔王、いや、修也と亜美の長く、厳しく、そしてハッピーエンドを約束した旅が始まるのであった。