第一章 海賊船と軍艦.08
「良かったのかな? 彼女は出世すると思うんだけどなぁ」
オーシャが海賊船に戻ると、
ジーウィルは「勿体無い」と言って出迎えた。
隣には損得勘定が得意な
副長メイツェンがうんうんと頷いている。
「だってさー、私に軍人なんて似合わないよ、絶対。だってなんか面倒そうなんだもん」
あっけらかんと言うオーシャは、どこまでも自由だった。
「軍艦、落すって選択肢もあるのに、いいの?」
「ワシ、無駄に船壊すの嫌いなの」
「ホント、船長はお人よしだなぁ」
二人は顔をあわせて笑う。
確かに、彼女には軍人は向いてないだろう。
むしろ向いているのは……
「ふむ……しかしこれを言ってものか」
大体は船長の考えていることのわかる
副長メイツェンは視線で
「もう決めてるんでしょう?」と問い掛けてくる。
ジーウィルは自分の娘と同じくらいの少女に
こんなこと言うのもなぁと思いつつ
「海賊する?」
そう言ってしまった。
オーシャは笑って、
「する」
一言で即答した。
「それじゃあ、歓迎パーティでもしようか」
初めから、そう少女を拾った時から、
こうなることは決まっていたのかもしれない。
「準備は頼むから。コックのレイチェル一人じゃ辛いだろうし、新型の炎光炉が手に入って踊ってるセレンにも手伝わせてやって」
実は見かけにもよらずとてもどんちゃん騒ぎが大好きな
副長メイツェンは「段取りはお任せを」と親指を上げた。
「なんかこれから、忙しくなりそうかな」
船長は息をつく。
きっとレイジェ王国は、
宣言した通りの1年以内に近隣諸国に戦争を仕掛けるだろう。
あの軍艦ジーニアス……
確かにオーシャが言った通り相当な性能である。
なにより炎光炉の主力が段違いだったのだ。
数を揃えれば非常に強力な軍隊となるのは間違いない。
当然、陸軍も同様の炎光炉を装備しているだろう。
久しく大きな戦争もなく、
軍事技術が停滞しつつあった諸外国の軍備では勝てまい。
――大きな戦争になる。
あの副将が目指す通り、
レイジェ王国はアロガン大陸を平定してしまうかもしれない。
ならば当然、海も荒れるに違いないだろう。
「楽しくて良さそうじゃん」
割と深刻な話だというのに、少女は笑って簡単に言った。
こうして、オーシャは海賊船と、
ジーウィル=ポラリスという船長と出会った。
これが運命の最初の一幕。
歴史に名を残す伝説の大海賊
『オーシャ=ポラリス』の1ページ目だ。
まだ、物語は始まったばかり。
世界は廻り出した。
その中でこれから彼女が紡いでいくのは、
大きな物語なのだから。
第一章 海賊船と軍艦~完~
第二章 獅子と黒蛇へ続く
これで一章は終了とになります。
次回からは2章『獅子と黒蛇』になります。