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最終章 オーシャとロラ.08

「将軍、海賊船が激突! 乗り込まれます!」


「落ち着け、海兵は武器を持って甲板に集え! 見張りは引き続き周辺の監視を続けろ!」


砲撃をしていたナインスが頭を下げる。


「申し訳ありません。落とせませんでした」


「仕方あるまい。それに、あの勢いだ。撃ち落とすと決めた時から、どちらにせよ接触は避けられなかった」


それに、と続ける。


「そのお陰で、こうして私は彼女と船上での再会を果たせる」


船に乗り込んできたのは、少女一人だった。

他の船員は最初から乗り移るつもりなどないらしく、

けが人の手当てや消火活動をしている。

一瞬チラッと仮面の剣士がこちらを見ていたような気がした。


(やれやれ……イクル=リタース。帰ってこないと思えば)


だが、今は元部下のことはどうでもいい。


「お待たせ」


海賊衣装に身に包む、

真っ赤な髪の少女が船首から悠然と歩いてきた。

そして、マントを仰々しくなびかせて、立ち止まる。

海兵たちが剣を抜こうとするが、ロラはそれを制した。


「ああ、君を待っていた」


ロラも向かい合うように前に出た。

少女はまるで先ほどまで

泣いていたのか充血した眼をしている。

だというのに彼女はとても不敵な笑みを浮かべて、

50人はいる軍人たちを前にして堂々と立っていた。


「私は、海賊オーシャ=ポラリス」


彼女が腰に差した剣を抜く。

それはとても美しい剣だった。

まるで海のように深い蒼色の鞘から、

淡い青い刀身が表れる。

激しくなってくる雨の中でも、

それはまるで輝いているようだった。


「まだ何もわかっていないあなたたちに、私が仕方ないから教えてあげるよ」


彼女は剣をゆっくりと構えロラへ向ける。


「あなたたちの負けだ。だから、降伏しなよ」


高らかに宣告した。

一瞬、誰もがその言葉の意味を理解できなかった。


「なんだと……?」


軍人たちがざわめく。

ナインスにいたっては怒りで

今すぐにでも剣を抜いて飛び出さんとばかりだった。

けれどロラは一言「黙っていろ」と部下を黙らせた。


「君らは船を失った。対して我々はこの旗艦ウィズダムと二隻の無傷のノーブルが残っている。負けたのは君たちだろう」


そして少女が抜く剣を見て、


「まさか、一騎打ちで決着をつけようだなんて言うつもりではないな?」


そう尋ねるが、海賊は首を振った。


「もちろん。でもまあ、剣で戦っても私が勝つに決まっているけれどさ」


そんなことをうそぶいた。

ロラはイクル以上の剣の腕前を持つ。

素人でもロラが剣に慣れていることは

見ればわかるというのに、

華奢な少女は勝って当然という顔をしていた。

あまりの堂々たる態度に、

誰もが戸惑いを隠せない。


「ロラ。あなたは勘違いしているよ。あの時、『私たち』って言ったのに、忘れたの?」


「勘違い……だと。この嵐のことを言っていたのではないのか?」


問い返す将軍に、

彼女は芝居がかったように大げさに肩を竦めた。


「本当はレイジェ王国海軍なんてオールド号だけでも勝てたんだけどね」


そんなことを平然と言ってのけてニヤリと笑った。


「でもまあ、せっかくだからアンバスの連合艦隊を打ち破ったというあなたたちに、お披露目してあげようかと思ってさ」


「お披露目……?」


まるで意図が読めないロラは、問い返すことしかできない。

少女、青い剣をゆっくりと西側に向けて、


「そう、私のために作られた新しい海賊船……それは――」


そしてその名前を、叫んだ。



「――レッドポラリス!」



「将軍、新たな船影です! 大きさはエンゼル級!」


少女の声に呼応するように、見張りの叫び声。

ロラは少女の剣が指し示す方向を見て、


「なんだ……あの船は!」


信じられないモノを見るような驚いた表情を浮かべる。

その船は、まず速力が尋常ではなかった。

新型の軍艦であるノーブルの速度も

従来のモノとは一線を越す。

だというのにその船は

更に2倍近くの速度で航行しているのだ。

そして軍人たちが目を疑うのは、それだけではない。


深紅なのである、その船は。


遠く離れていても視認できてしまうくらいに、

海では目立つ派手な色。

まるで、そう、

目の前に堂々と立ちふさがる少女の髪と同じ。

奇襲で軍艦や商船を襲う海賊船は当然、

見つかりにくい色でなければならない。

だというのにそんな大前提を覆す大胆な船体色。

そしてまるで炎を纏っているかのように、

周辺の空気が揺らいでいた。

それは比喩ではなく、

本当に船が燃えているかのように揺らいでいるのだ。


一番艦へと向かっていた四番艦が、

突如として近づいてきた不審な船に砲撃をする。

けれどそんな馬鹿げた速度で

航行する船に当てられるはずがない。

そしてお返しとばかりに、

赤い船はすれ違い様に炎光炉を撃ち抜いて軍艦を沈黙させた。


「馬鹿な。あんな速度で動きながら、そのうえ砲撃までできるだと!」


ウィズダムですら高速航行を

行いながらの砲撃などできない。

炎光炉は一つしかないのだ。

全力稼動で船を動かしているのに、

力を砲撃にも回すなどできるはずがない。


赤い船が近づいてくると、

その全容がはっきりと見えた。


「どう、私の船は? 格好いいでしょ?」


そして、ウィズダムの横に並び、停船する。

甲板ではかなり得意気な表情をした

副長メイツェンが嬉しそうに手を振っていた。


「……なんという形をしているんだ、この船は」


ロラが呆然と呟く。

レッドポラリスという名前の船は異様な形をしていた。

船の形自体は普通のエンゼル級だが、

驚くことに側面が扉のように2箇所も開いているのだ。

砲門が覗く小さな窓などではなく、

まるで屋敷の扉のように大きく。

海の上で高波がくれば浸水しかねない、

そんな馬鹿げた構造である。

そこから激しい熱が放出されており、

まるで炎のように空気を揺らめかせている。


「炎光炉を3つも同時に搭載しているというのか……」


むき出しの船内には炎光炉が上部の穴に一つ、

下には二つ見える。

その炎光炉はレイジェ国のモノ……

いや更にそれをベースに形を変えている未知の炎光炉。


「もう一度言うよ。降参しなよ。嵐はもう傍まで来ているよ」


海賊は笑い、剣を鞘に収める。

ロラはもう戦意を喪失していた。

もう、戦う意味はないだろう。


「ああ、私の負けだ」


そして敗北を認める。


「白旗をあげろ! 本艦も軍港へ帰港する!」



こうして、後に『ガンゾス海戦』と呼ばれる戦いは幕を降ろした。



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