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最終章 オーシャとロラ.04

「この戦い、絶対に負けられなくなったね」


オールド号に戻ったオーシャは気楽そうに


「いや、ホント……ワシ、寿命が絶対縮んだ……」


ジーウィルは心底疲れた顔でぐったりとしていた。


「それでどうだったのかしら?」


ヨウコが尋ねると、船長は「予定通り」と頷く。


「口約束ではあるが、勝負を取り付けた。あの将軍なら何が起きても反故にはせんだろうしな。なんとか最初のステップは越えたというところだ」


「いやぁ、本当にロラがいてくれて良かった。これ、違う人だった無理だったよね」


その言葉に対して、イクルは


「本当は最初からロラ副将が王国海軍の将軍になるはずだったのだ。だが、古株のチッタ将軍の顔を立ててやった結果が、ジーニアスの敗退。なら次に海軍を任せられるのはあの人以外にはいない。レイジェはまだまだ優秀な人材が不足しているのは現状なのだ」


さすがに数ヶ月前まで現役だっただけに詳しい。


「それで、そっちはどう?」


オーシャが尋ねると、

航海士のケイズが図面を持ってやってくる。


「このあたりの地形は描いたよ。とりあえず見た様子ではリーゼル級が4隻と旗艦のレンドゼル級が1隻。まさかラインゼル級が最初から一隻も造っていないとはね、ビックリさ」


「ふむ……あと4日でおかわりが出てくると思うか?」


「いえ、船長。連合艦隊との決戦でさすがに疲弊はしているようでさ。ドックから溢れている痛んだ船が結構見えてましたし、無傷とまでもいかなくても損傷が少ないのがあの5隻だけなんでしょ。まあ、我々にとっては良い情報ですな」


そう、船に残ったメンバーは

港の様子を確認していたのだ。

あわせて周辺の地形、

時間による波の動きなど

得られる情報は全て集めようとしている。


「口の軽い軍人に連合軍との決戦の様子を聞いたら、場所はレンバル海峡……波と風の流れが強い場所。レイジェの船はジーニアス同系列艦であるみたいですから、速さを活かした機動戦闘がメインかなって考えられます。あの炎光炉の出力を考えれば……鈍重なラインゼル級では砲門をあわせることすらできないでしょーね」


次いで報告をしたのはセレンだった。

船を見ながら


「重装甲で高火力にするために軍艦を大型のラインゼル級へとシフトしている各国に対して、まあ随分と挑戦的ですねぇ。並んでる船の構造では……砲撃を喰らって当たり所が悪かったら一発で沈むんじゃないですかね」


冷静に帝国の船に対して分析をしていた。

彼らの技術の最重要機密である

新型の炎光炉はオールド号にもある。

ゆえに性能は誰よりもセレンは把握しており、

後は船さえ見れば大体の性能はわかるということだ。


「対して、あっちはこのオールド号の正確な性能を把握していないのが救いですね。前の戦いでもほとんど開始前の奇襲で勝ちましたし、更にオールド号は炎光炉2基搭載っていう滅茶苦茶な仕様になってますし」


「だよね。なんだか私たち、すっごく運がいいんじゃないの?」


楽しそうに笑うオーシャだったが、

イクルは首を振った。


「レイジェ王国は5隻でもどんな敵に対しても勝てると踏んでの、あの数なのだ。もう一度200隻以上の艦隊が集められるなら別だが。相手と同等の性能がある船ならまだしも、我々が乗っているはオールド号だということを忘れるな」


「船長、イクルが船長の船馬鹿にしているよ?」


「オーシャよ、お前が一番ワシを馬鹿にしとる」


そこへ胡散臭そうな顔をしたデイエンが、

半信半疑でオーシャに尋ねる。


「で、4日後……本当に来るんだろうな? お前の予想が外れていたら、このお膳立て全部台無しだぞ」


その言葉に、

オーシャは遠くの水平線を見て頷く。


「来るよ。まだ時間まではわからないけど、飛びっきりでっかいのがね」


みながその視線の先を見つめるが、

そこにあるのは綺麗な青空と、凪いだ海。

絶好の航海日和だといえる。


「賽は投げられたのですわ。なら、私たちはできることをして、決戦日を待ちましょう」


ヨウコの言葉にジーウィルは頷く。

そしてオーシャを見て、船員に告げた。


「ワシらには勝利の女神がついておる。少々じゃじゃ馬だが、なに、折り紙つきだ」



これが、一部の歴史書に名を残した

『ガンゾス海戦』の舞台背景だった。


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