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最終章 オーシャとロラ.03

「ロラ将軍……あのような輩の提案を呑むなど、何をお考えなのですか!?」


副将であるナインス=バンクが、

港から離れていくオールド号を指差し叫ぶ。

ロラは手で制し、

「落ち着け」と静かに言った。


「ナインス、お茶を入れてくれ。やはり慣れないせいかな、お前ほどはうまくお茶を淹れられなかった。やれやれ……私もまだまだだな」


「将軍!」


「いいから座れと言っているのがわからないのか。話をするから、早くお前も自分の分を淹れろ。普段からもう少し落ち着けと、陛下も仰っていただろう」


「……申し訳ありません」


ナインスは屈強な体格を持つ男であるが、

実はとても手先が器用である。

軍人でありながら

彼の淹れるお茶は中々のモノだった。

ロラは彼よりも美味い茶を淹れる者にまだ出会っていない。


「さて、話は全て隣室で聞いていたのだろう? 何から聞きたい」


「……そうですね。差し当たっては何故このような勝負を受けたのです。この場で取り押さえてしまえばいいでしょう」


ロラは副将を睨む。


「お前は恩義あるあの海賊に対して、栄光なるレイジェ王国軍人がそんな恥知らずのことをしろというのか。そんな安易なことをしてみろ、陛下の耳に入れば笑われるだけでは済まんぞ」


「何を言ってるのですか。相手は常識の範囲外にいる者たち。わざわざ真面目に取り合う必要などないと私は言ってるのです。この場で剣を抜いても何ら不思議ではなかった」


彼の言葉ももっともである。

だがロラは首を振り、


「お前はジーニアスが負けた話を聞いているだろう。彼女らにとって何の得にもならない口約束を律儀に守ってくれていたから、我らは今、ここガンゾス港を制圧できている。その相手に対して敬意と感謝を示すことは人として当然だ。ナインス……陛下も常々仰っているが、人としての誇りを捨てれば、それはただの蛮族。ベリエル陛下を蛮族の王など言わせないためにも、我らは王国軍人として恥ずかしい真似は絶対に許されない」


カップを一度口につけてから、彼女は続ける。


「それにな、正直に言うと私はあの少女が怖いのだ」


「……怖い?」


「そうだ。ここであの二人を捕まえるのは簡単だ。しかし、そのことにより予想も出来ないことが起きてしまうのではないかとな」


「……随分とあの少女のことを買っているのですね。それほどの者ですか?」


不満げな表情のナインスに、

ロラは自分の胸に手を当てて見せる。


「私もお前も、ここに将としているのは出自ではないだろう。実力でここまで這い上がってきたという自負はある。だというのに、お前は新しい芽を認めることができないというのか?」


「それは……」


「ナインス、お前の言いたい事もわかる。だが、これは陛下も望んでいることなのだ」


「……どういうことです?」


何故ここで王の名前が出るのかと彼は疑問を口にした。

ロラは目を閉じて、王の言葉をそのまま告げる。


「お前たちの力は私が一番知っている。だというのに負けたということは、お前たちの能力が足りなかったのではない……その少女がお前たちを上回っていたのだ」


そう言われるだけのロラは信頼は得ているのだ。

そして更に王の言葉を続ける。


「私は興味がある、我が誇り高き海軍を破ったというその少女に。ゆえにオーシャという少女、もし次に出会うことがあれば我が前に連れて来てほしい」


さすがにその言葉を聞いた時はロラも驚いたモノだ。


「……まさか、そんな。ではこの勝負を受けたのは」


「そう、陛下の意向でもあるのだ。彼女を無理やり連れていくことに意味はない。ならば、自分の意思で来てもらうためには絶好の条件だろう」


ロラは立ち上がり、


「対等な勝負に持っていけば、我らが負けることはない。つまりこれが最善なのだ。エシアなど制圧するのはどうということはないが、あの少女を引き入れるにはそれ相応の段取りが必要となる」


窓際に立って、

もう見えなくなった海賊船の方角を見つめる。


「4日後、必ず彼女たちは来るぞ。それにあわせて準備を進めろ。また海域に他の船がいないかも警戒怠るな……相手は一隻などと一言も言っていない」


あの少女は、一筋縄ではいかないだろう。


「我々はウィズダムを含めた5隻全てで戦う。いいか、連携も取れずほとんどが自滅した連合艦隊などと訳が違う。あの船はボロいが何をしてくるかわからない」


マントを翻して振り返り、強い口調で告げた。


「この戦い、絶対に勝つ」



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