第一章 海賊船と軍艦.01
第一章 海賊船と軍艦
少女が仰向けになって寝そべっていた。
彼女が乗っているのは小さな小舟。
所々が腐っていて独特な木の匂いと、
ギィギィというきしむ音が絶え間なく響く。
もういつ沈んでもおかしくない……
けれどこれに命を託すしかないというのが少女の現状だった。
気分としてはイカダに乗っているのと大差ない。
彼女が小舟で流されてからちょうどまる一日が経っている。
オールも帆もないために、流れに身を任せるしかない。
運が良ければどこかの島にでも辿り着ける……そう思った時もあった。
けれど、今いるのはシカザ大陸とアロガン大陸の間にある
ルドニス洋のど真ん中……
何海里離れているか分からないが足の遅い商船で出発して
ちょうど20日に投げ出されたから、まあそのような位置なのだろう。
どんな高速艇でも陸までは10日はかかる。
それを進む力も持たないこんな小舟が陸を拝むのは、
両手では足りないほどの奇跡が必要だろう。
太陽の日差しを遮るため古い埃まみれの布を被る。
少女は考えるのを止めて、ただじっとしていた。
僅かな水と食料はとっくに食べてしまったから、
彼女ができることは、もう何一つとして残ってはない。
嵐と言わず、ちょっとした高波が来るだけで転覆してもう終わりだ。
「ふぅ……私は何も間違ってなかったはずだけど」
彼女が漂流していることに、自身の落ち度はない。
なけなしの金を払って乗り込んだのは
安全な航海には定評のあるナイモン商会の大型船。
「それがまさか撃沈されるだなんて、ね」
沈む船からなんとかこの舟で脱出したものの、
今ではその判断は失敗だったのではないかと思う。
あのまま沈んでいれば、
こんな一人寂しく飢え死にするようなことにはならなかったはずだ。
生きてればいいだなんてとても言えない。
正直、楽に死ねた方が良かった。
海鳥の鳴き声。
(鶏肉でもいいから、食べたいなぁ)
もう自分が起きているかすら、怪しい。
意識は夢と現実を気付かないうちに何度も行き来している。
さっきまで街の屋台通りで自分は抱えきれないほどのフルーツに、
フォークを指してさあ食べようという時に目が覚めた。
その前は公国で最も美味しいと呼ばれる名店で
「生肉のカルパッチョ」を食べようと並んでいて、
さあ自分の番が来たと思ったら目が覚めた。
(ああ……死にたい)
食欲が、最高の贅沢なんだと今更気付いた。
だから、ふっと突然に太陽の光が何かに遮られたのも、
また意識が飛ぶ前兆だと思っていた。
けれどぼろ布のかび臭い匂いは相変わらずで、
私は無意識のうちに布を避けていた。
「そっか……今度は、こんなモノを見るのか」
夢に違いない。
光を遮っているのは、何か大きな物。
私はそれを知っている。
けれど、それはここにあるはずがないもの。
ァアー……ァアー……
海鳥がうるさく鳴いている。
「船……」
そう船だ。
けれど、商船でもないし漁師の船でもない。
それは――
「海賊……船」
彼女の運命を変える、黒い船だった。