幕間に☆三者の視点
この高校には、四天王と呼ばれる恐ろしい不良の人達がいる。
私はその事を、身をもって知ることになった。
あれは昨日の事。突然ドアを蹴破って現れた二人組の不良は、鉄パイプを持って相馬君を襲おうとして、返り討ちに遭った。
いきなり目の前のドアが破れたことにも驚いたけど、相馬君が平然と一人の首を切り落として、一瞬意識が遠退いた。
でも次の出来事にはもっと驚いた。
ピンク色の髪の、不良っぽい女子が、身を呈して相馬君を止めたのだ。そのお陰で、もう一人の襲撃者は生き残れた。まあ、その後に別の人に殺されてしまったのだけれど。
その後突然、物凄い風が教室に吹いて、私はもみくちゃにされた。
気が付いた時には皆が床に倒れていて、何もかもが、メチャクチャになっていた。台風か竜巻でも起きたのかと思ったが、廊下から聞こえてくる風と戦いの音とが、あれは自然の物でない事を教えてくれた。
相馬君は、ピンクの女子を人質にとった男の人と闘っていた。
私は固唾をのんで一部始終を見守った。
風を操る四天王の風間と言う人。教室をメチャクチャにして、一人の人間を平気で殺した、恐ろしい人。
相馬君はピンクの女子を守りながら闘い、最後には彼に勝った。
私は血が苦手だ。暴力も嫌いだし、人殺しなんてもっての外だ。
でも。
女の子を守りながら闘い抜いた相馬君は。
もしかして。
そんなに悪い人じゃないのかもしれない。
私はそんな風に考えていた。
「ちょっと、みさき?聞いてるの?」
不意にトモエの声が聞こえてきた。どうやら深く考えていたようだ。慌てて意識を戻す。
「あ、うん。何?」
「もー、やっぱり聞いてないんじゃん」
トモエがぷっくりとした可愛い唇を尖らせる。
「ああ、ごめんね!…何の話だっけ」
私は素直に謝った。
「だからさあ、出たらしいよ?」
「うんうん、例のあれがね」
ユキもトモエに同調して、意味深な発言をする。例のあれ。何だろう。
「やられたんだって、1組の男子が」
「しかも一人じゃないらしいよ」
「えー。何?怖いよ」
この二人、絶対私を怖がらせようとしている。その手に乗るかと思いながらも、すでに私はドキドキが止まらなくなってきた。
「大丈夫だよ、みさきは安心だよ」
「ていうかうちら全員安心だよね」
意味深な事を言いながら二人は笑いあっている。もう、なんなの?
「だからさぁ、出たんだよ。ハンターが」
ユキは私の耳元で、そう囁いた。
同時刻。火呆高校番長室。
そこは相変わらず薄暗い空間であったが、そこに浮かぶ人影は全部で4つ。前回に比べ少なくなっており、そしてその場にいないもの達は、すでにこの世を去った後だった。
一同は苦々しい思いで空白となった席を見つめている。
死んだ者のうち、一年生の二人はどうでも良い。重要なのは、この火呆高校四天王の一角、風林火山の風の風間が、一年生ごときに殺られたと言う事だ。しかも話を聞くと、風間は兵隊こそ使わなかったものの、必殺技であるワイルドウィーゼルを用いての万全の状態で臨み、返り討ちに遭った。
「あの風間のワイルドウィーゼルを破るとは」
人影の一つが、口を開いた。
「報告ではやはり武器に巨大なチェーンソーを使ったと聞く」
他の人影も声を発した。
「接近武器で風間に対抗したと言うのか?馬鹿な」
「ふむ、チェーンソーか。面白い。次は俺にやらせろ」
「待て。抜け駆けは許さんぞ」
「そもそもたかが一年に風間が負けたってのが信じられねえな。他に協力者が居たんじゃねーのか」
「報告では、風間との戦いの時には一人の女が絡んでいたらしい」
「女だと?はん。ますますあり得ねえな」
議論は錯綜する。だがここにいる誰一人として、風間の二の舞になるつもりは毛頭無かった。あるのは溢れんばかりの闘志。強いものをこの手でねじ伏せたいと言う闘争の欲求だった。
「静まれ」
それまで一言も発する事なく沈黙していた番長が、口を開いた。途端に全員が静かになる。
「その一年…相馬と言ったか。奴の事は置いておけ」
番長の言葉に、全員が息をのむ気配が部屋に満ちた。
「…お言葉ですが、奴は四天王である風間をやってます。」
「そうです。このままでは下に示しがつきません」
当然の反応が返ってきて、番長は片手を、あげる。
皆が再び黙った。
「分かっている。風間の落とし前は必ずつけさせる。だが我々が手を下す前に奴の存在は消えるやもしれぬぞ」
番長の発した言葉の意味を理解出来たものが居たかは分からない。しかし彼等は番長の次の言葉を聞いて、戦慄を覚えた。
「相馬和彦…やつは、例のハンターの、最重要ターゲットだ」
同時刻。火呆高校屋上。
屋上に悲鳴が上がった。そこにいたのは武道派でならした一年生の不良10名。そのうちの一人が、信じられないものでも見たかのように口を開けて、絶叫していた。後ろにいた残りの9人は、彼の股間から夥しい量の血液が流れ出るのを目撃して唖然とした。
やがて流れ出るものの無くなった男は、その場に崩れ落ちて、ぴくりとも動かなくなった。
男が倒れた事によって、そこに一人の人影が現れた。
風になびく長い髪。目立った敬造をされていないブレザーとスカート。そして。
右手も左手も真っ赤に血に染まっている。
右手には、血を浴びて鈍く銀の輝きを放つ凶器が。
そして左手には、根元から切断された男性の性器が。
そしてその人影は、それらを高々と掲げて、笑った。
その女は、ぞっとするほど美しかった。
生き残った男達は、ただ唖然としてその女を見ていた。
しかし、次の瞬間。女がその場から消えた。
「ひっぎゃああぁあぁあ!」
悲鳴が上がる。いつの間にか一人の男に肉薄した女は、一瞬の間にその男の性器を切断していた。
「ふふ、2つ目ぇ…」
女の声に我に帰った男達は、悲鳴を上げてその場から転げるように逃げ出した。屋上唯一の出入口へ向かって走り出す。しかし。
「逃がさないよぉ?」
女の声が耳元に聞こえてきて、男の一人がぎょっと横を向いたときに、股間を耐え難い激痛が走った。
「ぁああうぁいあいあああ!」
三度、悲鳴が屋上に響き渡る。
「な、何だ。何なんだあの女は!」
「馬鹿、走れ!逃げろ!」
「あいつは…!あいつは、例のハンターだ!…あばばばばばああああ!」
また一人、性器を切断された男が崩れ落ちる。
ほんの数分後。屋上の床に転がった10の死体の一つに腰かけて、彼女は鼻唄を唄っていた。むせかえるような血の臭いが絶え間なく彼女の鼻を突くが、別に気にならない。
今日のこれは単なる準備運動でしかない。もっとも、武道派と聞いていたから少しは楽しめるかと思いきや、ただ逃げ惑うだけの羊と変わらないのでは、少々宛が外れた感はある。
しかしそれでいいのだ。
楽しみは本番まで取っておいてこそ。
「ふふっ」
彼女は積年の想い人の様にその名を呼んだ。
「相馬和彦…みぃつけた。次はお前よ」