番長室☆秘密会議
火呆高校には、番長室と呼ばれる部屋がある。
かつては校長がその部屋の主であったが、ふかふかのソファーと灰皿を残して他の物は全て捨てられた。代わりに持ち込まれた、テレビや冷蔵庫、ビリヤード台やパチンコ台などの遊具に、サンドバッグなどが所狭しと並べられている。さらに床にはあちこちにタバコの吸い殻やビールなどの空き缶が散乱し、壁にはスプレーで落書きがなされている。
もはやこの部屋の今の主達が校長らを追い出す前の面影を、そこにみつけるのは難しい。
部屋は昼間にも関わらず薄暗かった。部屋の住人達が吐き出す紫煙が部屋の中にたゆたい、閉じられたカーテンの隙間から差し込む僅かな光に当たって独特の模様を描いていた。
部屋の暗がりに、全部で7人の人影があった。
その中でも一際巨大で、部屋の最奥のソファーに独り座る男こそ、ここ火呆高校の番長である。
彼は昨日入学式を終えて登校してきた一年生二人から、入学式で起きた「事件」の話を聞いた。
「あいつ、間違いないッス!火般山一中の相馬和彦です!」
「俺らの代じゃ、ぶったぎりのソウって名で通ってる奴です!」
「あいつ、半端じゃねーっすよ、人をまるで木を伐採するみたいに、チェーンソーで…ううっ」
「お、おい、大丈夫か?それにしてもあのチェーンソー、一体どこから取り出しやがったんだ、あり得ねーぞあんなでっかいの」
一年生二人が興奮しながら話す続けているのを、番長は手で制した。そしておもむろに口を開いた。
「相馬和彦、か。活きの良い一年が入ってきたな」
ドスの効いた番長の声に、一年生二人は聞いただけで震え上がりそうになる。
「おい、風間。お前そいつを連れてこい。言うこと聞かねえならフクロにしてもいい」
番長は側に立っていた一人の男に声をかける。
風間と呼ばれた男は、気取った風に長髪をかきあげ、一礼した。
「お任せ下さい」
そのやり取りを見ていた一年生二人は、ホッと胸を撫で下ろした。
これであの、ぶったぎりのソウと恐れられた悪魔も大人しくなるだろう。
「一年の諸君。君たちには案内を頼むよ」
一年生の二人は突然、風間と呼ばれた男に告げられた言葉に、今度は心臓が締め付けられる思いを味わった。
「え。あ、案内ですか」
「クラスなら調べてありますが」
咄嗟に言葉を並べて危機を回避しようとする。が、しかし、無駄な努力であることを二人はすぐに理解した。
歩み寄って来た風間の顔がカーテンの隙間から差し込む光に照らされて暗闇に浮かび上がる。とても美しい顔立ちで、多くの異性を引き付けるであろうその顔にはしかし、これ以ないほどに残虐な笑みが浮かんでいたからだ。
この人は自分達に何かろくでもない事をさせるつもりだ。そしてそれを心から楽しむつもりなのだと、彼等は確信した。
この荒んだ火般山で、多く見てきた表情だからこそ彼等は、これからの自分達の運命を考えずにはいられなかった。