来世はきっと
花は盛りを終えたのに
あの人は葉桜を眺めている
ただの緑の葉が珍しいのか
毎日縁側に腰掛けて煙管をふかす
話しかけても話しかけても
私の名前を呼んではくれない
こんな老いぼれの桜の木を
どうしてそんなに見つめるのか
なんだか寂しくて羨ましくて
私はわざと桜の幹で爪を研いだ
一度だけ私のことを「さくら」と呼んだ
その声の美しいこと憎らしいこと
来世、生まれ変われたら桜の木になろう
あなたの好きな桜の木になろう
もしも、それが叶わぬ願いなら
仕方がないから人の姿で生まれよう
そんなのは面倒だけどきっとつまらないけど
桜の木は諦めて長い黒髪を揺らそう
たくさんおめかしをしてあなたに会いたい
そして退屈しのぎに言葉を交わしたい
来世より、お慕い申し上げておりました
でもきっと、恥ずかしくて言えないから
やっぱり今度も猫に生まれよう
あなたに頭を撫でられる
この体で傍にいよう