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いつしか人の声が遠くなり、私は引き寄せられるように坂道を登っていた。

石畳の道。

さっき感じた息苦しさも嫌な汗ももう感じない。

港から吹いてくる潮風に背中を押されているような気がした。



大人になれば魔女が住んでるなんていうバカげた考えは笑い飛ばせる。

あれは子供たちの空想の産物。

魔女を見たという子供たちの言葉も恐れが作り出した幻影。

実際には普通の人が住んでいるのかもしれないし、すでに空家となっているだけかもしれない。


だけどきっと子供の頃のそんな印象が潜在意識のどこかに隠れていて、たまたま今それが姿を現しただけだ。

だからもう一度この目で確かめて、そこには何もないと確信できれば私の不思議な夢は終わるはず。

子供の頃には持てなかったちょっとした勇気も、今なら適当な理由を付けて奮い起こせる。

だから……大丈夫。





空はオレンジに染まり、町全体が夕暮れに包まれて所々に影を作る。

忍び寄ってくる闇は見る見るうちにその手を広げ、全てを飲み込んでしまうまでにそう時間はかからないだろう。

だから早く。

だから…あの人のところへ。







その館の敷地には取り立てて他人を拒むものはなかった。

想像していたようなロープも、Keep Outの看板も。

ちゃんと人が住んでいる気配にホッとしつつ、恐る恐る玄関に向かう。

夢と同じ。

蔦に覆われた外壁はくすんだミルク色が微かに見えるだけ。


だけど近くで見ればここは子供の頃に感じたほどの大きな屋敷でもなければ、魔女が住んでいるような怪しい巣窟でもなかった。

2階の窓にはカーテンが揺れる。

灯りも点いている。


何て言おう?

見知らぬ家を突然訪れて、どんな言い訳をするか考えてもいなかった。




とにかく出て来た人に正直に話そう。

そう思って扉の前に立つ。

この場所を訪れる全ての人を見てきた大きな扉。

ノックの音さえ吸い込んでしまいそうな……。


夢と違うのは待っていても扉は勝手には開かなかったことくらいだろうか。




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