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『琥珀に取り込まれるよ』
まさかね。
琥珀の瞳なんかじゃない。
夢の彼はただのブラウン・アイズだった。
この国にはよくある瞳の色。
ほら、マリアだってブラウンの瞳を持っている。
それが光の加減で琥珀に見えただけ。
不思議な夢を見て、不思議な言葉を思い出して、それを無理やり繋げてしまっただけ。
だけどあの人は誰だったのかしら?
これまではただ景色と家だけだった夢に、今朝は初めて人が出て来てそして声も聞いた。
掌も感じた。
もしかして実在する人だったなら、何故私の夢に出て来るのか。
のんびりと進んできた昨日までとは違い、明らかに新しい要素が投げ込まれた夢。
それが私にとって良い事なのか悪い事なのか。
単なる夢と割り切ってしまうにはあまりにもリアルで何らかの意思を感じる夢。
毎日見続けるこの夢に何か意味はあるのか。
一体私に何を訴えてくるものなのか。
あの館に隠されたものは何なのか。
分からない事が多すぎる。
知りたい……知りたくない……怖い………でも知りたい。
「ねぇマリア、今日少し早く上がらせてもらってもいいかしら?」
「それは構わないけれど……やっぱりどこか具合が悪いの?夢のせいで寝不足じゃない?」
「そうかもね…久しぶりに家に帰って母さんの手料理でも食べようかと思うの」
「それがいいわ、ママの味は何よりの癒しになるもの。何か美味しいものでも作ってもらいなさい」
生まれ育った家で眠れば変な夢も見ないんじゃない?というマリアの言葉には適当な相槌で誤魔化した。
何故ならあの館は現実にあリ、私はその町へ帰ろうとしていたから。
私が生まれ育った町。
石畳の坂道と白い壁、煉瓦色の屋根。
海からの潮風は丘の上のお城へと辿り着き、狭い路地には人々の声とファドがこだました。
そんな町の外れに建つ大きなお屋敷を、子供たちは緑の館と呼んでいた。
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