【fiona side】~1
全てが過ぎてしまえばそれはやはり夢の世界のよう。
ジョゼと過ごした日々も描いた絵も。
身体に残されていた痕も月日が経てば思い出だけを残して消えて行った。
今となれば彼が本当にそこにいたのかどうかは分からない。
マリアからナルキッソスにまつわる話を聞いた。
10歳で亡くなったレオナルドの一人息子・ジョゼ。
それは今から80年も昔の話。
ジョゼを亡くしたレオナルドが彼を魂ごと作り上げたオルゴール。
様々な人の手に渡り、その人生を狂わせてきたと言う。
そんなオルゴールをマリアは良くないものだったと言うけれど、私はそうは思わない。
最後のジョゼの言葉が今も耳に残っている。
『君にふさわしい大人になりたかった……サーカスと共にこの町を訪れた時から』
彼はずっと周りの人間が大人になっていくのを見続けてきたのだろう。
10歳の姿を留めたままで。
そして私と出会い、大人になる事を求めた。
でも彼が本当に望んでいたのは緑の館に帰る事だ。
両親と過ごした一番幸せな時間を取り戻したかっただけ。
だから夢の中で私を緑の館に招き、自分の居場所はここなのだと訴えようとした。
彼はずっと純粋なままだったのだ。
少年のままの気持ちで自分のいるべき場所に戻り、そこで安らかに眠りたかっただけ。
誰かを傷付けようとか、ましてや持ち主の命を奪おうとか、そんな事を考えていたはずがない。




