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エピローグ 【maria side】~1




風香る春の日。

空には飛行機雲が一筋伸びて、太陽の光は金色に輝いて見えた。

数日前の忌まわしい空気などまるで無かったかのように町が透き通っている。



あの時リカルドさんは帰ろうとした私を呼び止めて、こう言った。


お嬢さん、ちょっと待ちなさい。

爺さんの話ではね、あの人形には秘密があるんだよ。

本当かどうかは知らないが万が一の時には役に立つかもしれん……人形の顔を見てごらん。

あの人形の目は本物の琥珀で出来ているんだ。

爺さんがレオナルドに何故琥珀を使うのかと聞いたところ、彼はこう答えたそうだよ。


『知らないのかい?琥珀は8500万年も昔からこの世の全てを見てきたんだ。ジョゼを生き返らせる方法も琥珀が教えてくれたのさ』と。


その時は爺さんにも何の事だか分からなかったらしいが、数年経ってあのオルゴールが生きてると言う噂が広がった時に、そういう事だったのかとゾッとしたと言っていた。

だからねお嬢さん、もしも何かが起こった時には人形の目を外しなさい。

どんな方法でもいい。


あれは琥珀の瞳さえ取ってしまえばただの人形だ。



………


………………



ひとりでに動くオルゴール。

俯き加減に本を読む少年の瞳が、確かに光って見えた。

飲み込んだ悲鳴は喉に張り付いたまま、周りの空気さえも拒絶しようとした。

禍々しい念が私を襲う。


レオナルドは人形の瞳に琥珀を埋め込む事によって、本当に死んだ息子が戻って来ると信じた。

そこには琥珀の神秘も関係していたかもしれないし、ジョゼ自身の心もどこかに残っていたのかもしれない。

もちろん死んだ人間を生き返らせる方法など本当にある訳がない。

だけどレオナルドの強い念…愛する息子を生き返らせたい…という想いは違う形で人形に宿ってしまったのだ。


正気を無くすほどの愛情。

失った者に対する慟哭。

在りし日への羨望。


様々な想いが渦巻いて絡み合って、オルゴールに命を与えてしまった。



死んでもなお、この世に縛り付けられたままのジョゼ。

人生を狂わされた多くの人々。

ジョゼに悪意があったとは思ってはいない。

だけど狂った時計は直さなきゃいけないし、狂った想いはどこかで断ち切る必要があった。

それをジョゼも望んでいる気がした。


その証拠にキャビネットに叩き付けた人形からは、呆気なく小さな琥珀が転がり落ちたから。

まるで自分から落ちるのを待っていたかのように。




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