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【fiona said】




空気の色が変わった。

白く霞んでいた視界が、私とジョゼを包んでいた真綿のような柔らかさが。

波が引くようにスーッと薄れて行った。


そしてこの幽玄の世界を切り裂くようなガシャンという尖った物音。






―――僕を描いてくれてありがとう――……‥‥



そんな言葉を残して……彼の全てが霧散した。

姿も声も、気配さえも。



掻き消えるように目の前からジョゼが消えた

まるで溶けてなくなるように、崩れていく砂のように、ジョゼが消えた……。



「ジョゼ?!待って!」



思わず声を出してジョゼがいたはずのソファーに手を伸ばす。

その瞬間、布を引いたようにサーッと、見えていた光景が変わった。



「っ?!!!」



殺風景なクリーム色の壁、モスグリーンのカーテン、色とりどりのキャンパスと絵の具。


ここは私のアトリエ……緑の館ではない。




違う。

夢なんかじゃなかった。

私の前にはジョゼがいたし、たった今、言葉も交わしたのに。

それなのにこの数週間がまるで嘘のように、私の頭の中までもが霧が晴れるように明瞭さを取り戻していったのだ。



「フィオナ!しっかりして!」


「マリ……ア?」



何故ここにマリアがいるのだろう?

そんな当たり前の疑問がまず浮かんだものの、彼女の血走った眼と溢れる涙に全てを悟った気がした。


浄化されてゆく。


私の記憶も気持ちも。


マリアの涙は何よりも貴くて、この部屋に立ち込めていた妖しげな霞までをも取り払っていった。



そして……。





この数週間の間、ずっと描き続けていたはずの絵は。





どこにも残されていなかった―――。






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