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私が本当にナルキッソスに恋をしたのは多分その時が最初だったと思う。
両親と共に広場を歩き回っていた時に、ピエロがぜんまいを回すのを見た。
生きているかのようにゆっくりと首を傾ける人形に最初は戦慄し、そして惹き付けられた。
理由なんて判らない。
ただ気になって気になって、何度もその場所を訪れては時間の経つのも忘れて眺めていた。
その時にピエロが私に言ったのだ。
「お嬢ちゃん気をお付け、運命のぜんまいに巻かれてしまうよ、琥珀に取り込まれるよ」
運命が回り始める前に琥珀から逃げなさいと。
それきりそのピエロに会う事はなかったけれど、ずっとその言葉が私の耳に残っていた。
運命のぜんまいに巻かれる。
琥珀に取り込まれる。
どういう意味だろう?
オルゴールが琥珀に気を付けろと私に告げている?
だけどその時の私の中では、言われた不吉な言葉よりもその人形の妖しい魅力の方が大きく占めていた。
その言葉の意味を本気で考えようと思ったのはきっと今が初めてかもしれない。
夢から覚めた今も脳裏に焼き付いている琥珀の瞳……。
運命が回り始める。
琥珀が呼んでいる。
―――お嬢ちゃん気をお付け、琥珀に取り込まれるよ―――
外はもうすっかり日が昇り、近くでは教会の鐘の音が朝の訪れを告げる。
窓を開ければ冴えた空気と共に、動き出した町の気配も入ってきた。
時が動く。
ぜんまい仕掛けのように。
***