【fiona side】~1
緑の館を訪れたのは何度目だろう?
初めて来たのは最近のような気もするし、もっとずっと昔のような気もする。
遥か昔……私が生まれるよりもっと前から、ここにいた気もする。
だけどきっともうここに長くはいられない。
目の前のキャンパスにはジョゼの姿。
波打つ柔らかな黒髪、高い鼻筋、滑らかな頬、薄い唇は僅かに口角を上げて静かに笑みを湛えている。
でもそれもあと少し。
闇に沈んだ背景も白いソファーも描き終えて、あと1か所だけを残して絵はほぼ完成していたから。
―――フィオナ聞いて
僕にはもう時間がない
もう行かなきゃいけないんだ
僕はずっと君を探してた
ずっと会いたかった
サーカスと共にこの町を訪れた時から
そして君にふさわしい大人になりたかった
ねぇフィオナ、知ってた?
僕はあの時からずっと君に恋していたんだよ
ジョゼの声がどこか遠くで聞こえているような不思議な感覚。
私は今、緑の館で絵に最後の筆を乗せようとしていた。
最後に描くと決めていたのは……蜜のような琥珀色。
目の前のソファーにはいつも通りジョゼが座り、微かに首を傾けてこちらを見ている。
薄闇の中でもそこだけが光る琥珀の瞳。
サーカスの時?
あなたはやっぱりナルキッソスなの?




