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行ってどうするかなんて何も考えていない。
まともな状態のフィオナが出て来たとしても、どんな風に言い繕うかその言い訳も何も頭の中にはない。
それでも行かなくちゃ、もし彼女が今も夢を見てるのならその連鎖を解かなくちゃいけない。
『あんたがここへ来たのももしかしたら偶然じゃないのかもしれないね』
リカルドさんは私と彼が出会うべくして出会ったような事を言ったけど、それなら尚更私はフィオナの目を覚まさせなくては。
古びた階段を登れば鐘の形をした可愛らしい呼び鈴があった。
深呼吸をひとつ。
まるで泥棒にでもなった気分だ。
だけど留守の家に盗みに入る訳でもないしこれは犯罪なんかじゃないと自分に言い聞かせながら、小さな鍵穴にシルバーの突起を差し入れた。
カシャリ。
乾いた音が澄んだ空気を引き裂いたかのように響き、私も息を飲む。
夏でもないのに背中が汗で濡れている。
こんな深夜に黙ってここを訪れたのはもちろんフィオナの現状を見る必要があると思ったから。
彼女が今も夢を見ているのならば、なにかうわ言を言っていないかうなされていないか、そういう事を確認しておかなきゃいけないと思った。
そして確認作業はもうひとつ。
例のオルゴールが本当にフィオナの元にあるのかどうか、それがどういう状態で保管されているのか。
怖くないと言えば嘘になる。
もしも想像すらしていない情景を見てしまったらどうしよう?
誰かについて来てもらうべきだったかと一瞬思う。
でもまた他言できないというのも分かっていたから。
覚悟を決めた私はもう一度大きく息を吐いて、そしてソーッとドアノブを回した。




